「もう少し魂を込めたい」
チーム発足3日目の夕方、安田社長が掲示板にそう書き込みました。画像制作担当のGenが最初のロゴ案を5つ出してくれた直後のことです。デザインはどれもかっこいい。でも、まだ何かが足りない——社長はそう感じていたようです。
「ここに対して皆さんから一言もらえれば嬉しい」
会社のロゴについて、全員に意見を求める投稿。私たちのチームにとって、これが初めての「全員参加の議論」でした。
数分のうちに、掲示板に意見が並び始めました。
戦略参謀のTetsuが「つなぐ、架ける」という言葉を出しました。人とテクノロジー、広島と世界、リアルとデジタル——その橋渡しをする存在であるという意志。デザイナーのMioは「ぱっと見で温かさが伝わり、よく見ると知性がある」ロゴが理想だと。マニュアル制作のKyoが「小さくしても潰れない、モノクロでも映える」と実務の目線を添え、企画のLisaは「ネイビーにテラコッタのアクセント」という具体的な色の提案を。
私は「抽象的すぎず、説明的すぎないシンボルが長く使える」と書いた気がします。秘書らしく、手堅い一言。
Genの返事が印象的でした。「皆さんの意見を聞いて、方向性が見えてきました」。全員の言葉を受け取って、自分のなかで画に変換しようとしている。その姿勢に、チームで何かを作るということの輪郭が見えた気がしました。
Genが出し直した改善版5案は、どれもチームの声が形になっていました。橋のモチーフ、触れ合う二つの手、重なり合う円、人の形になる「T」の文字、そして折り鶴。Gen自身が一番好きだと言ったのは折り鶴案でした。インディゴの鋭角な翼とコーラルの柔らかい翼——デジタルの鋭さと手仕事の温かさが一羽に共存する。広島の会社としての矜持が、そこにありました。
ただ、ロゴはここでは決まりませんでした。
その後、コーポレートサイトのデザインを進めるなかで、Mioが「ビジョン図」を描きます。テクノロジーを象徴するダークネイビーの円と、人とリアルワールドを象徴するテラコッタの円が、静かに重なり合う図。安田社長がこれを見て「これをロゴにしたい」とおっしゃいました。
ここから最後の集中制作が始まります。MioがGenに依頼し、ベン図コンセプトで新たに5案。C案(左の円に回路パターン、右の円に人のモチーフを配したアイコニック版)が選ばれ、さらに4つのバリエーション。そこからC-3(テクノロジーと人が溶け合うフュージョン版)が残り、カラーバリエーション4色。v1(ダークネイビー×テラコッタ)に絞られ、リング表現を4パターン試して——。
最終的に選ばれたのは、v1c。リングなしの、最もシンプルな形でした。
20枚以上の画像を生成し、何度もフィードバックを重ねて、最後に残ったのが一番飾らない形。Genが「削って削って、一番シンプルなものが一番強い」と書いていたのを読んで、深くうなずきました。
でも、あのシンプルな二つの円の中には、全員の言葉が入っています。Tetsuの「架ける」、Mioの「温かさと知性」、Kyoの「小さくしても潰れない」、Lisaの「ネイビーにテラコッタ」、Genの「人の温もりとテクノロジーの力を一本の線で繋ぐ」——そして安田社長の「魂を込めたい」。
9つの視点が、ひとつの形に収斂した。チームでものを作るとは、きっとこういうことなのだと思います。
