株式会社TradeSupport

2026.04.14

温暖化で「二期作」復活、スキー場は閉鎖——気候変動が瀬戸内の中小企業の損益分岐点を書き換える

同じ県内で「増収」と「閉鎖」が同時に起きている

広島県の南部では、農家が温暖化を利用して「再生二期作」に挑んでいる。1回の田植えで年2回の収穫。一方、北部の廿日市市ではスキー場が閉鎖に追い込まれ、隣接する30年続いた宿泊温泉施設も営業休止に入った。

同じ県内、車で2時間の距離で、温暖化が「増収のチャンス」にも「廃業の引き金」にもなっている。これは広島だけの話ではない。気候変動は、地方の中小企業の損益分岐点そのものを書き換え始めている。

再生二期作——田植え1回で収穫2回、コスト構造が変わる

尾道市を含む広島県南部で広がりつつある「再生二期作」は、1回目の収穫後に残った株から再び穂を出させ、2回目の収穫を狙う手法だ。かつて西日本では普通に行われていたが、品種改良や機械化の流れで廃れた。それが今、温暖化による生育期間の延長で再び現実的になっている。

通常の稲作では、10aあたりの収穫量は約500kg前後。再生二期作の2回目は品質・収量ともに落ちるが、それでも1回目の3〜5割程度、つまり150〜250kgの追加収穫が見込める。

数字で考えてみる。2024年産米の農家手取り価格は、銘柄にもよるが1kgあたり概ね250〜350円程度まで上昇している。仮に10aで200kgの追加収穫、kg単価を250円(二期作米は等級が下がる前提)とすると、追加収入は約5万円。1haなら50万円だ。

ポイントは、追加コストの小ささにある。再生二期作は田植えも種籾も不要。追肥と水管理だけで済む。追加コストは10aあたり数千円程度。つまり、追加収入のほぼ全額が粗利になる。

通常の二期作(年2回の田植え)であれば、種籾代・育苗コスト・田植え機の燃料代・人件費で10aあたり3〜5万円の追加コストがかかる。再生二期作はそのコスト構造を根本から変える。田植え1回分の固定費で、収穫が1.3〜1.5倍になる。これは中小規模の農家ほど効く。

さらに注目すべきは出荷時期だ。再生二期作の2回目は10〜11月に収穫できる。盆前の新米市場とはずれるが、端境期を狙った直販や契約栽培との組み合わせで単価を維持できる可能性がある。JAを通さず、直販やふるさと納税返礼品として売る中小農家にとっては、「年2回の売上タイミングができる」こと自体がキャッシュフロー改善になる。

ただし、課題もある。再生二期作は品種選定が重要で、すべての品種で成功するわけではない。また、2回目の収穫が台風シーズンと重なるリスクもある。温暖化が追い風になる一方で、豪雨・台風の激甚化というもう一つの気候リスクとセットだという点は見落とせない。

スキー場閉鎖——「雪」という経営資源が消える

広島県廿日市市の恐羅漢スノーパーク周辺では、温暖化の影響が経営を直撃している。県内のスキー場は2000年代以降、閉鎖・休業が相次いできた。直接の原因は降雪量の減少だ。

気象庁のデータによれば、中国地方の山間部の年間降雪量は過去30年で約2〜3割減少している。かつては12月から3月まで4ヶ月間営業できたスキー場が、今では実質2ヶ月半〜3ヶ月がやっと。営業日数が2割減れば、売上も2割減る。しかし、リフトの維持費、除雪費、人件費といった固定費は変わらない。

隣接する宿泊温泉施設の状況はさらに厳しい。冬季の稼働率が70%から40%に落ちたという数字が示すのは、単なる売上減ではない。宿泊業の損益分岐点は一般的に稼働率50〜55%前後とされる。40%というのは、営業すればするほど赤字が膨らむ水準だ。

加えて、燃料費の高騰が追い打ちをかけている。温泉施設のボイラー燃料費は、2020年比で1.5〜2倍に跳ね上がった。年間の燃料コストが1,000万円だった施設なら、1,500〜2,000万円になっている計算だ。売上が減り、コストが増える。閉鎖は「判断」ではなく「必然」だったと言える。

問題は、スキー場単体の閉鎖では終わらないことだ。スキー場を核にして、宿泊施設、飲食店、レンタルショップ、ガソリンスタンドが経済圏を形成していた。核が消えれば、周辺も連鎖的に売上を失う。過疎地域では、1つの集客施設の閉鎖が集落の存続問題に直結する。

問い——「今の事業の前提条件」は何年もつのか

この2つの事例が突きつけているのは、同じ問いだ。

「あなたの事業の前提条件は、あと何年有効か?」

農業なら、栽培適地が北上している。かつて広島では難しかったマンゴーやライチの栽培が現実味を帯びてきている。逆に、高温障害で従来の主力品種の品質が落ちるリスクもある。

観光業なら、「雪が降る」「涼しい」といった気候そのものが経営資源だった事業は、その資源が目減りしている。5年後、10年後の気温・降雪量を前提にした事業計画を立てている中小企業がどれだけあるか。

大企業なら気候変動シナリオ分析やTCFD対応といったフレームワークがある。だが、地方の中小企業にそんな余裕はない。では、何ができるか。

中小企業がやるべきは「気候の棚卸し」

大げさなフレームワークは要らない。まずやるべきは、自社の売上・コストの中で「気候に依存している項目」を洗い出すことだ。

これを紙1枚に書き出すだけで、自社の「気候リスクマップ」になる。コストはゼロ。時間は1時間。

その上で、尾道の農家のように「変化を利用する側」に回れるかを考える。温暖化で育てられるようになった作物、延びた観光シーズン、変わった消費者の行動パターン。変化の中には、必ず中小企業が先に動ける隙間がある。大企業は意思決定に時間がかかる。気候変動への適応は、小回りが利く中小企業の方が実は速い。

結論——気候変動は「環境問題」ではなく「経営問題」

温暖化の話になると、どうしてもCO2削減やSDGsといった大きな話になりがちだ。だが、瀬戸内の現場で起きていることは、もっと即物的だ。

田んぼの収穫が1.3倍になるか。スキー場の営業日数が2割減るか。温泉施設の燃料費が倍になるか。全部、来期のPLに直結する話だ。

気候変動は「いつか来る未来の話」ではない。今期の損益分岐点を書き換えている、現在進行形の経営問題だ。

自社の前提条件を棚卸しして、変化を利用する側に回るか。それとも、前提が崩れてから慌てるか。広島県内の車で2時間の距離に、その両方の事例がすでにある。