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2026.09.01

広島修道大に農学部、コシヒカリ概算金1.56万円、マツダ国内生産25%増——「広島で作る」のコスト構造が変わる秋

3つのニュースを並べると、構造が見える

広島で「作る」の意味が変わりつつある。

2027年4月、広島修道大学に県内初の農学部が開設される。食農科学科など3学科体制。同時に、2024年産コシヒカリの概算金(JA が農家に仮払いする金額)は60kg あたり1万5600円。前年から大幅に上昇した。そしてマツダは直近月の国内生産台数を前年同月比25.2%増の7万888台に引き上げた。

農業、食、製造業。分野はバラバラに見える。だが「広島で作ることのコストと価値のバランスが動いている」という一点で、この3つは完全につながっている。

農学部がなかった県、という事実の重さ

まず押さえたいのは、広島県にはこれまで農学部が1つもなかったという事実だ。

中国地方では鳥取大学、島根大学、山口大学に農学部がある。人口280万人を擁する広島県にだけ、なかった。農業を学びたい若者は県外に出るしかなく、そのまま戻ってこないケースが多い。農林水産省の統計によれば、広島県の基幹的農業従事者数はこの10年で約4割減少している。人が減り、知が流出し、現場が痩せていく。この構造を放置してきたツケは大きい。

広島修道大学が設置する農学部は「食農科学科」「農業経営科学科」「環境科学科」の3学科構成と報じられている。注目すべきは「農業経営」を独立した学科にしている点だ。作る技術だけでなく、売り方・稼ぎ方を教える設計になっている。

ここが重要だ。地方の農業が抱える最大の課題は「作れない」ではなく「稼げない」だからだ。

広島県の農業産出額は約1200億円。全国27位。決して小さくはないが、レモン、牡蠣、広島菜など単価が取れるブランド食材を持ちながら、それを経営として回せる人材が圧倒的に足りない。大学が地元に農業経営の知を供給する拠点になれば、10年後の広島の農業の風景はまるで変わる可能性がある。

ただし、条件がある。大学の研究室が地元農家の現場に入り込めるかどうか。論文を書くだけの農学部なら、正直なくても変わらない。修道大学が広島市内の都市型大学であることを考えると、県北の中山間地域とどう接続するかが最初の試金石になる。

コシヒカリ概算金1万5600円——農家は喜んでいいのか

2024年産米の概算金が全国的に高騰している。広島県産コシヒカリの60kgあたり1万5600円という数字は、数年前と比べれば大幅な上昇だ。2022年産は1万円前後だったことを考えると、約5割増。農家の手取りが増えるのは間違いない。

だが、手放しで喜べる話ではない。

なぜ米価が上がっているのか。需給がタイトになっているからだ。2024年夏の猛暑による品質低下、作付面積の減少、そしてインバウンド需要の回復。供給が減り、需要が戻った。構造的に米が足りなくなりつつある。

これは裏を返せば「作り手が減っている」ということだ。広島県の水稲作付面積はピーク時の半分以下。高齢化と後継者不足で、毎年じわじわと田んぼが消えている。米価が上がっても、作る人がいなければ意味がない。

中小の農家にとって本当に重要なのは、この米価上昇を「一時的なボーナス」で終わらせず、設備投資や後継者確保の原資に変えられるかどうかだ。概算金1万5600円が続く保証はどこにもない。むしろ、高値の今こそ「次の一手」を打つべきタイミングだろう。

ここで農学部の話とつながる。例えば、広島県北部の中山間地域で、大学と連携した小規模高付加価値米のブランディングができたらどうか。60kgあたり1万5600円ではなく、2万円、3万円で売れる米を作る。技術と経営の両方を大学が支援し、農家が実践する。そういう具体的な連携が見えてくれば、農学部設立の本当の価値が立ち上がる。

マツダ国内生産25%増——「国内回帰」の中身を見る

マツダの国内生産が前年同月比25.2%増。7万888台。数字だけ見れば力強い。新型CX-5の好調や、北米向け輸出の増加が背景にある。

だが、これも構造を見る必要がある。

マツダが国内生産を増やしている理由は、単純な「日本回帰」ではない。為替(円安)の恩恵、海外工場の生産調整、そして新型車の立ち上げが国内工場に集中しているという複合要因だ。円安が続く限り、国内で作って輸出するほうがコスト的に有利。だが、為替が反転すれば、この構造は簡単にひっくり返る。

それでも、広島の地域経済にとってマツダの国内生産増は大きい。マツダの広島本社工場と防府工場を合わせた従業員数は約2万人。1次・2次のサプライヤーまで含めれば、広島県内で数万人規模の雇用がマツダの生産計画に連動している。25%増というのは、下請けの中小企業にとって「ラインが回る」ということであり、それは資金繰りと雇用の安定に直結する。

ここで気になるのは、マツダのEVシフトの遅れだ。2024年時点で、マツダのBEV(バッテリーEV)のラインナップは限定的。欧州や中国市場ではEVシフトが進む中、内燃機関中心の生産体制がいつまで「国内で作る優位性」を維持できるのか。中長期では、マツダがEV・電動化にどう舵を切るかが、広島の製造業の命運を握る。

3つのニュースが示す「広島で作る」の条件

農学部、米価、自動車。3つの動きから浮かび上がるのは、「広島で作る」ことの価値は自動的には上がらないという冷静な現実だ。

農学部ができても、現場と切れていれば人材は育たない。米価が上がっても、作り手がいなければ生産は増えない。マツダの生産が増えても、為替とEVシフト次第で風向きは変わる。

では、何が必要か。

「知」と「現場」の接続コストを下げることだ。

ここにAIやデジタル技術の出番がある。例えば、農学部の研究データを地元農家がスマホで参照できる仕組み。マツダのサプライチェーンで培われた品質管理のノウハウを、食品加工の現場に転用する試み。大学、農家、製造業。それぞれが持つ「知」を、低コストで横につなげる。これは大企業にはできない。顔が見える距離にいる地方の中小企業だからこそできることだ。

具体的に言えば、農業×AIの領域では、衛星画像による生育診断が1圃場あたり年間数千円で使えるサービスが出てきている。かつて農業コンサルに年間数十万円払っていたものが、桁が2つ変わった。こういうコスト構造の変化を捉えて、現場に実装できるかどうか。それが「広島で作る」の価値を本当に変えるかどうかの分水嶺になる。

で、結局どうすればいいのか

広島修道大の農学部は2027年開設。まだ3年ある。この3年で、大学と地元農家・企業の連携の「型」を先に作れるかどうかが勝負だ。開設してから考えるのでは遅い。

米価の高騰は、中小農家が投資に回せる数少ないチャンス。概算金が5割上がったなら、その上振れ分をどこに突っ込むか。ドローン、AI診断、直販EC。1つでいいから「次の武器」を仕込む時期だ。

マツダの国内生産増は、サプライヤーの中小企業にとって息継ぎの期間。この間にEV関連の技術を1つでも社内に取り込めるかどうかで、5年後の景色が変わる。

「広島で作る」の価値は、誰かが上げてくれるものではない。農学部ができても、米価が上がっても、マツダが増産しても、それだけでは変わらない。現場が動いて、初めて変わる。

この秋、広島で「作る」の意味を考え直す材料は揃った。あとは、動くかどうかだ。