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2026.08.20

カキ大量死アラート×シロヘビ281匹死亡×消防隊員が熱中症搬送——瀬戸内の「暑さの被害額」を試算したら、最低でも数十億円だった

瀬戸内の猛暑は「天気の話」じゃない。経済損失の話だ

結論から言う。瀬戸内エリアの猛暑は、すでに数十億円規模の経済リスクを生んでいる。

広島の養殖カキが大量死の危機に瀕し、「警戒アラート」が発令された。岩国市では国の天然記念物・シロヘビが過去最多の281匹死亡。竹原市では火災現場で消防隊員が熱中症で搬送された。

これらは別々のニュースに見える。だが根っこは同じだ。「暑さ」という一つの原因が、産業・観光・労働力という地域経済の三本柱を同時に削っている。

「暑いですね」で終わらせていい話ではない。被害額を具体的に試算してみた。

カキ養殖:出荷額200億円産業が「海水温1℃」で揺れる

広島県のカキ生産量は全国シェア約6割。出荷額は年間約200億円。瀬戸内の基幹産業そのものだ。

そのカキが、猛暑で死にかけている。広島県は2024年も海水温上昇に伴う「カキ大量死警戒アラート」を発令し、県内5海域で養殖業者に対策を呼びかけた。2023年夏には実際に大量死が発生し、一部の養殖業者では生産量が2〜3割減少したとされる。

ここで数字を見てほしい。

仮にカキの生産量が全体で20%減少した場合、出荷額ベースで約40億円の損失になる。50%減なら100億円だ。しかも被害は出荷額だけでは終わらない。養殖カキは稚貝から出荷まで約1年半かかる。今年の大量死は来シーズンの出荷にも響く。つまり損失は「1年で終わらない」構造になっている。

さらに見落とされがちなのが、養殖業者の廃業リスクだ。広島県内のカキ養殖業者は約300事業者。その多くが家族経営の中小零細だ。大量死が2年連続で起きれば、運転資金が持たない事業者が出てくる。一度廃業すれば、筏(いかだ)や設備、ノウハウごと消える。復活は容易ではない。

海水温の上昇幅は、ここ10年で夏場のピーク時に約1〜1.5℃上がったとされる。たった1℃。だがカキにとっては生死を分ける1℃だ。

養殖業者の現場では、筏の設置水深を深くする、密殖を避ける、へい死モニタリングを強化するといった対策が取られている。だが、これらはすべてコスト増要因だ。水深を深くすれば作業効率が落ち、密殖を避ければ生産量が減る。「対策を取る=利益が減る」という構造を、個々の中小事業者が自力で吸収しなければならない。

試算:カキ養殖の猛暑リスク=年間40億〜100億円規模(生産量20〜50%減の場合)

シロヘビ281匹死亡:天然記念物の損失は「金額」だけで測れない

岩国市のシロヘビは、世界的にも珍しいアオダイショウの白変種で、国の天然記念物に指定されている。岩国市が運営する「岩国シロヘビの館」は年間来館者数が約10万人。周辺の錦帯橋エリア全体では年間約300万人の観光客が訪れ、観光消費額は推定で数十億円規模だ。

2024年、このシロヘビが過去最多の281匹死亡した。飼育個体数は約900匹とされるから、実に全体の約3割が一度に失われた計算になる。

直接的な観光収入への影響を試算する。シロヘビの館の入館料は大人200円。年間10万人で入館料収入は約2,000万円。仮に来館者が20%減れば400万円の減収。小さく見えるかもしれない。

だが本質はそこじゃない。

シロヘビは岩国市の「観光ブランド」の核だ。錦帯橋とシロヘビは岩国観光の二枚看板であり、シロヘビの存在が岩国という街の認知度を支えている。ブランド毀損の影響は入館料の減収では測れない。

仮に錦帯橋エリア全体の観光客300万人のうち、シロヘビの話題性が寄与している割合を控えめに5%と見積もっても、15万人分の観光消費に影響する。観光客1人あたりの消費額を3,000円(日帰り平均)とすれば、約4.5億円分の観光消費がリスクにさらされていることになる。

さらに深刻なのは、シロヘビは「増やせばいい」という単純な話ではないことだ。天然記念物の繁殖には時間がかかる。遺伝的多様性の維持も課題になる。281匹の死亡は、将来の繁殖基盤そのものを揺るがす。

岩国市は空調設備の強化や飼育環境の改善を進めているが、ここでもコストは自治体が負担する。人口約13万人の地方都市にとって、毎年の猛暑対策費は軽い負担ではない。

試算:シロヘビ関連の猛暑リスク=観光ブランド影響含め年間数億円規模

消防隊員の熱中症搬送:「人が倒れる暑さ」の労災コスト

広島県竹原市で発生した火災の消火活動中、消防隊員が熱中症の症状で病院に搬送された。消防隊員は防火服を着用して活動するため、体感温度は外気温より10〜15℃高くなるとされる。外気温35℃なら体感は45〜50℃。人間が正常に活動できる限界を超えている。

この問題を「個別の事故」として見てはいけない。構造的なコストとして見るべきだ。

厚生労働省のデータによれば、全国の職場における熱中症による死傷者数(4日以上の休業)は年間約800〜1,200人。広島県内だけでも年間数十件の労災認定がある。1件あたりの労災コストは、治療費・休業補償・代替人員の確保を含めると平均50万〜200万円。重症化すれば数百万円に達する。

仮に広島県内で猛暑に起因する労災が年間50件発生し、1件あたり平均100万円のコストがかかるとすれば、年間5,000万円。これに生産性低下(暑さによる作業効率の低下は最大で30〜40%とする研究もある)を加えれば、県全体の経済損失はさらに膨らむ。

特に深刻なのは、消防・建設・農業・製造業など、屋外や高温環境で働く人材への影響だ。これらはいずれも地方の中小企業が多い業種であり、人手不足がすでに深刻な分野でもある。「暑くて働けない」が常態化すれば、人材確保はさらに困難になる。

試算:熱中症関連の労災・生産性コスト=広島県内で年間数億円規模

合計試算:瀬戸内の「暑さの被害額」は最低でも年間50億円超

ここまでの試算をまとめる。

項目 推定被害額(年間)
カキ養殖(生産量20%減の場合) 約40億円
シロヘビ関連(観光ブランド影響含む) 数億円
熱中症・労災・生産性低下 数億円
合計 最低50億円超

これは控えめな見積もりだ。カキの被害が50%に達すれば100億円を超える。農業被害、水道・電力インフラへの負荷、医療費の増加を加えれば、瀬戸内エリア全体では100億円規模に達してもおかしくない。

で、結局どうすればいいのか

「暑さ対策」と聞くと、大規模な設備投資や公共事業を想像するかもしれない。だが、中小企業や地方自治体にそんな余裕はない。

だからこそ、コストが小さくて効果が大きい打ち手から始めるべきだ。

1. データで「予測」する

カキの大量死は、海水温のモニタリングデータである程度予測できる。広島県はすでに警戒アラートの仕組みを持っている。これをさらに精緻化し、AIによる予測モデルと組み合わせれば、「いつ、どの海域で、どの程度のリスクがあるか」を事前に把握できる。IoTセンサーとクラウドの組み合わせなら、導入コストは1海域あたり数十万円レベルまで下がっている。300万円かけて調査会社に頼む時代ではない。

2. 「暑さコスト」を経営指標に入れる

中小企業の経営者に伝えたいのは、暑さはもはや「天気の話」ではなく「経営コスト」だということだ。熱中症による労災、作業効率の低下、品質劣化——これらを「暑さコスト」として見える化し、対策の投資対効果を計算すべきだ。空調服1着1万円で作業効率が20%改善するなら、それは投資だ。

3. 地域で「暑さの経済白書」をつくる

今回の試算はあくまで概算だ。だが、こうした数字を地域全体で共有する仕組みがあれば、対策の優先順位が明確になる。広島県や瀬戸内の自治体が連携して「暑さの経済被害レポート」を毎年発行すれば、国への予算要求にも、企業の投資判断にも使える。感覚ではなく数字で語ることが、対策を動かす第一歩になる。

問いかけ

瀬戸内の暑さは、毎年「今年は暑かったね」で終わってきた。

だが、カキが死に、シロヘビが死に、消防隊員が倒れている。被害額は控えめに見ても50億円を超える。

この数字を見て、まだ「天気の話」で済ませられるだろうか。

暑さは構造的なコストになった。対策しなければ、毎年この額が地域経済から消えていく。逆に言えば、ここに先に手を打てる地域が、次の10年で差をつける。

瀬戸内は、その最前線にいる。