株式会社TradeSupport

2026.08.18

採用面接で人を誘拐する時代——中小企業の求人が「犯罪インフラ」になる構造と、今すぐやるべきこと

「面接に来てください」が誘拐の入口になった

広島市で、30代の女性2人が逮捕された。容疑は誘拐。手口は「採用面接」だった。

求人に応募してきた男性を面接名目で呼び出し、そのまま拘束。国外に移送して特殊詐欺の「かけ子」として働かせようとしていた。背後にいるのは「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」——従来の暴力団とは異なり、SNSや求人サイトを通じて離合集散を繰り返す新型の犯罪組織だ。

この事件、「怖いね」で終わらせてはいけない。中小企業の採用活動そのものが、犯罪のインフラとして利用される時代に入ったということだ。

求人プラットフォームが「犯罪の入口」になる構造

なぜ求人が狙われるのか。理由は単純だ。コストがほぼゼロで、ターゲットが自分から来てくれるからだ。

今、無料で求人を掲載できるプラットフォームはいくつもある。Indeed、ジモティー、ハローワークのネット版。企業側の本人確認が甘いサービスでは、架空の会社名で求人を出すことすらできる。犯罪者にとっては、街で声をかけるよりはるかに効率がいい。

警察庁の発表によると、2024年のトクリュウ関連の検挙件数は約2,500件。前年から急増している。そのうち特殊詐欺関連が大きな割合を占め、「かけ子」や「受け子」の人材確保が組織運営のボトルネックになっている。だからこそ、求人という「合法的な接点」が悪用される。

中小企業にとって問題なのは、自社の名前が勝手に使われるリスクだ。実在する会社名をかたって求人を出し、応募者を呼び出す。被害者が「○○株式会社の面接に行ったら誘拐された」と証言すれば、その会社の信用は一瞬で吹き飛ぶ。

日本に中小企業は約336万社ある(2024年版中小企業白書)。そのうち採用活動をオンラインで行っている企業は年々増加し、求人広告の市場規模は約1兆円に達する。この巨大なマーケットの中に、犯罪者が紛れ込む余地は十分すぎるほどある。

「被害者」にも「加害者」にもなりうる中小企業

この問題には2つの面がある。

1つ目は、自社の求人に犯罪者が応募してくるリスク。

面接に来た人物が、実は犯罪組織のメンバーで、社内の情報や顧客データを狙っている。あるいは、採用後に社内から詐欺行為を行う。中小企業は大企業に比べてバックグラウンドチェックの体制が弱い。採用コストを抑えたい一心で、確認を省略してしまうケースも多い。

2つ目は、自社の名前や求人が犯罪に利用されるリスク。

広島の事件のように、架空または実在の企業名で偽の求人を出し、応募者を犯罪に巻き込む。自社が知らないうちに「犯罪インフラ」の一部にされてしまう。これは風評被害どころの話ではない。

中小企業の採用担当者——多くの場合、社長自身か総務の兼任者——にとって、こうしたリスクへの対応は「やったことがない仕事」だ。しかし、もはや他人事ではない。

今日からできる5つの具体策

大企業のように専門部署を置く余裕はない。だからこそ、低コストで今日から実行できることに絞る。

1. 自社名のエゴサーチを月1回やる

自社名で求人検索をかけてみる。出した覚えのない求人が出ていないか確認する。Googleアラートに自社名を登録しておけば、自動で監視できる。コストはゼロ、所要時間は月10分。

2. 求人掲載時に「公式サイトのURL」を必ず記載する

偽求人との区別をつけるために、自社の公式サイトやSNSアカウントへのリンクを求人情報に明記する。応募者が「この求人は本物か?」と確認できる導線を作る。

3. 面接は必ず複数人で、録画を基本にする

1対1の面接は、犯罪者にとっても都合がいい。最低2人体制にする。オンライン面接なら録画を残す。「録画させていただきます」の一言が、不正な応募者への抑止力になる。

4. 応募者の本人確認を「面接前」に行う

面接当日ではなく、事前にオンラインで身分証の提出を求める。運転免許証やマイナンバーカードの画像送付でいい。これだけで、身元を隠したい人間はふるい落とせる。eKYC(オンライン本人確認)サービスを使えば、月額数千円から導入可能だ。

5. 「おかしい」と思ったら即・警察と求人プラットフォームに連絡

不審な応募、不自然な問い合わせ、自社名を使った偽求人——気づいた時点で警察の相談窓口(#9110)とプラットフォーム運営に連絡する。「大げさかも」と思って放置するのが一番危ない。

求人プラットフォーム側にも責任がある

中小企業の自衛だけでは限界がある。プラットフォーム側の対策も問われるべきだ。

現状、無料で求人を掲載できるサービスの多くは、掲載企業の実在確認が甘い。法人番号の照合すら行っていないケースがある。法人番号は国税庁のサイトで誰でも無料で確認できるのに、だ。

求職者の安全を守るなら、最低限「法人番号の確認」「掲載者の本人確認」は義務化すべきだろう。これはプラットフォームのコストとしては微々たるものだ。やらない理由がない。

厚生労働省は2024年に職業安定法の改正を進め、求人メディアへの届出制を導入した。しかし、実効性はまだこれからだ。制度ができても、現場の運用が追いつかなければ意味がない。

地方の中小企業こそ、この問題に敏感であるべき理由

広島で起きたこの事件は、決して都市部だけの話ではない。

むしろ地方の中小企業のほうがリスクは高い。理由は3つ。

広島・瀬戸内エリアでも、特殊詐欺の拠点が摘発される事例は増えている。2024年には中国地方で複数のトクリュウ関連事件が報道された。「うちの地域は関係ない」は、もう通用しない。

「採用」は経営の最前線であり、セキュリティの最前線でもある

採用活動は、会社の玄関口だ。そこが無防備なら、犯罪者は堂々と入ってくる。

中小企業にとって、採用は人手不足を埋めるための切実な活動だ。だからこそ「早く決めたい」「来てくれるだけでありがたい」という心理が働く。その焦りが、確認の省略につながり、リスクの見落としにつながる。

コストをかけろとは言わない。エゴサーチに月10分、面接の2人体制、eKYCに月数千円。これだけで防げるリスクがある。

問いかけたい。あなたの会社の求人、今この瞬間、誰かに悪用されていないと言い切れるか?

確認するのに、10分もかからない。今すぐやってほしい。