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2026.08.08

通信制「雨ニモマケズ高校」×商業施設キャンパス×広島叡智学園——「学校の箱」が変わるとき、地方の不動産と雇用に何が起きるか

学校に「校舎」は要るのか?

2027年春、広島市中心部の商業施設に通信制高校「雨ニモマケズ高校」が開校する。校長に就任するのは、吉本興業ホールディングス元会長の大﨑洋氏。

この学校には、いわゆる「校舎」がない。商業施設の空きテナントがキャンパスになる。

一方、広島県が2019年に開校した広島叡智学園(HiGA)は、大崎上島という離島に全寮制の公立中高一貫校を置き、国際バカロレア(IB)認定を取得している。生徒は島に住み、島で学ぶ。

片方は「箱を持たない学校」、もう片方は「島ごと学校にした学校」。形は真逆だが、共通しているのは「従来の校舎という概念を捨てた」ことだ。

この動きが面白いのは、教育の話にとどまらないからだ。「学校の箱」が変わると、不動産の使い方が変わる。不動産の使い方が変わると、地域の経済構造が変わる。広島で起きているこの二つの実験は、地方の中小企業にとって無視できないシグナルだ。

空きテナント×通信制高校=不動産の「再定義」

地方都市の商業施設が苦しいのは、いまさら言うまでもない。広島市中心部でも、テナント空室率は上昇傾向にある。家賃を下げても埋まらない。埋まらないから施設全体の集客力が落ちる。負のスパイラルだ。

そこに「学校」が入る。これはテナント誘致の常識をひっくり返す発想だ。

通信制高校のキャンパスに必要な面積は、従来の校舎と比べて圧倒的に小さい。教室数は限定的で、生徒が常時全員いるわけではない。通信制の生徒はスクーリング(対面授業)の日だけ通う。つまり、商業施設側から見れば「平日昼間に安定した来館者を生む、省スペースのアンカーテナント」になりうる。

従来、商業施設のアンカーテナントといえば大型スーパーや家電量販店だった。しかし、ECに押されてこれらの業態は撤退が相次ぐ。代わりに教育機関が入れば、テナント料は低くても「集客装置」として機能する。

仮に月額賃料が10万〜30万円程度だとしても、生徒とその保護者が定期的に施設を訪れることで、周辺のカフェ、飲食店、書店、文具店に波及効果が出る。生徒500人が月2回スクーリングに来て、1回あたり1,000円使うとすれば、それだけで月間100万円の消費が生まれる。年間1,200万円。空きテナントのままならゼロだった数字だ。

さらに重要なのは、「若い人がいる施設」という空気感だ。商業施設の価値は、テナント構成だけでなく「誰がそこにいるか」で決まる。高齢者しかいないフードコートと、10代が行き交うフロアでは、出店を検討するテナント側の判断がまるで変わる。

地方の不動産オーナー、特に商業ビルを持つ中小企業にとって、これは一つの選択肢になる。「教育機関に貸す」という発想を持てるかどうかで、資産の価値が分かれる時代が来ている。

広島叡智学園——「島ごと学校」の経済インパクト

広島叡智学園が置かれた大崎上島は、人口約7,000人の離島だ。少子高齢化が進み、産業は柑橘栽培と造船が中心。典型的な「消滅可能性」を指摘される地域だった。

そこに全寮制の学校ができた。中高合わせて定員は約200名。生徒は全国から、そして海外からも集まる。教職員やスタッフを含めれば、学校関連の「島の住人」は300人近くになる。人口7,000人の島に300人が加わるインパクトは小さくない。約4%の人口増に相当する。

寮費・食費を含めた年間費用は約60万円(公立のため学費は実質無償、寮費等が主な負担)。200人の生徒が島で生活することで、食材調達、日用品購入、交通費など、年間数千万円規模の消費が島内で発生する。加えて、保護者の来島、学校行事、IB関連の視察など、交流人口も増える。

しかし、ここで見るべきは短期的な経済効果だけではない。

叡智学園の卒業生が将来、大崎上島に戻ってくるかどうか。あるいは、島で過ごした経験を持つ人材が、瀬戸内エリアの産業に関わり続けるかどうか。これが本当の勝負だ。

現時点では、卒業生の多くは国内外の大学に進学している。島に残る生徒はほぼいない。「人材育成」と「地域定着」のギャップは、全寮制モデルの構造的な課題だ。

正直に言えば、「島に学校を作れば地域が活性化する」という単純な話ではない。学校は人を育てるが、育った人が残る場所——つまり仕事と産業——がなければ、地域にとっては「通過点」で終わる。

二つの実験が示す「学校の箱」の本質

「雨ニモマケズ高校」と広島叡智学園。この二つを並べると、「学校の箱」の本質が見えてくる。

従来の学校は、土地を買い、校舎を建て、維持管理に年間数千万〜数億円をかけてきた。文部科学省の統計によれば、公立高校1校あたりの施設維持費は年間平均で約3,000万円。私立ならさらに高い。

この「箱のコスト」が劇的に下がったらどうなるか。

通信制高校が商業施設のテナントを借りれば、施設コストは月額数十万円。年間で数百万円。従来の10分の1以下だ。その分を教育コンテンツや講師の質に投資できる。あるいは、学費を下げて門戸を広げられる。

通信制高校の生徒数は、この10年で急増している。2013年に約18万人だった通信制高校の在籍者数は、2023年には約29万人に達した。高校生全体の約10人に1人が通信制を選ぶ時代だ。不登校の増加だけが理由ではない。「自分のペースで学びたい」「やりたいことと両立したい」という積極的な選択も増えている。

この流れが加速すれば、地方都市の空きテナントや遊休施設が「教育拠点」に転用される事例は確実に増える。

地方の中小企業にとって、何が変わるのか

ここからが本題だ。

不動産オーナー:空きテナントの出口が一つ増える。 教育機関は景気に左右されにくいテナントだ。飲食店のように1〜2年で撤退するリスクも低い。通信制高校の運営会社と組めば、安定した賃料収入が見込める。ただし、用途変更や消防法の対応など、ハードルはある。ここを代行できる不動産管理会社にはビジネスチャンスだ。

飲食・小売:「学生がいる街」の価値。 学生が日常的に通うエリアには、カフェ、コンビニ、文具店、プリントサービスなど、確実な需要が生まれる。大学キャンパスの周辺に商店街が形成されるのと同じ構造だ。通信制高校の場合、スクーリング日に集中するため、曜日ごとの需要予測が立てやすいという特徴もある。

人材・採用:若年層との接点が変わる。 地方の中小企業にとって、最大の課題は採用だ。通信制高校の生徒は、在学中からインターンや就業体験に参加しやすい。商業施設内にキャンパスがあれば、施設内の企業が直接生徒と接点を持てる。これは大企業にはない「近さ」だ。

教育関連サービス:新市場が生まれる。 オンライン教材、スクーリング運営支援、寮の管理運営、スクールカウンセリング、キャリア支援——通信制高校の増加に伴い、周辺サービスの需要も拡大する。地方のIT企業や人材会社にとって、参入余地がある領域だ。

「で、結局どうすればいいのか」

広島で起きているこの二つの実験は、まだ始まったばかりだ。「雨ニモマケズ高校」は2027年開校。叡智学園も卒業生を出し始めたばかり。成果が見えるのはこれからだ。

だが、構造の変化は明らかだ。

「学校の箱」のコストが下がれば、教育機関は都市のあらゆる場所に入り込める。商業施設、オフィスビル、廃校、空き家。不動産の用途が「商業」「住居」「教育」の境界を失っていく。

地方の中小企業がやるべきことは三つだ。

一つ目、自社の遊休資産を「教育用途」で見直すこと。 使っていないフロア、倉庫、空き店舗。通信制高校やフリースクールの運営会社に声をかけてみる価値はある。

二つ目、教育機関との接点を「採用チャネル」として設計すること。 通信制高校の生徒は、従来の高校生よりも社会との接点を求めている。インターン受け入れ、職場見学、プロジェクト型学習の連携先になれば、採用に直結する。

三つ目、「学生のいる街」を一緒に作ること。 一社でできることは限られる。商店街や商業施設の事業者が連携して、教育機関の誘致に動く。自治体の補助金や規制緩和の情報を集める。これは不動産の価値を上げる投資だ。

「学校の箱」が変わるとき、変わるのは教育だけではない。不動産、雇用、地域経済の構造そのものが動く。広島の二つの実験は、その最前線にある。