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2026.07.25

フェリー値上げ、ガチャガチャ観光、とびしま公募——瀬戸内の「移動コスト上昇×集客コスト低下」で中小観光事業者は何をすべきか

移動は高くなり、集客は安くなる。この構造変化を見逃すな

瀬戸内でいま、2つのコストが同時に動いている。

呉〜松山フェリーが値上げ。移動コストは上がった。一方、岩国市はガチャガチャ1回数百円で観光PRを仕掛け、とびしま海道は観光コンテンツをプロポーザルで公募している。集客・体験づくりのコストは下がる方向に動いている。

この「移動コスト上昇×集客コスト低下」という構造変化は、瀬戸内の中小観光事業者にとって脅威でもありチャンスでもある。問題は、この変化に気づいて動けるかどうかだ。

呉〜松山航路の値上げ——往復1,000円超のコスト増が意味すること

瀬戸内海汽船と石崎汽船が運航する呉〜松山航路が値上げされた。背景にあるのは中東情勢に端を発した燃料費の高騰だ。

具体的な数字を見ると、フェリー普通運賃は片道で数百円規模の引き上げ。往復すれば1,000円以上のコスト増になるケースがある。スーパージェット(高速船)も同様に上がっている。

たかが1,000円、と思うかもしれない。だが、日帰り観光客にとってはこの1,000円が効く。

例えば、広島から呉経由で松山に渡り、道後温泉に寄って帰る日帰りプラン。交通費の総額が往復で7,000〜8,000円だったものが9,000円近くになれば、「じゃあ今回はやめておこう」「車でしまなみ海道を回ろう」という判断が生まれる。移動コストの上昇は、ルート選択そのものを変える。

これは呉〜松山航路だけの話ではない。瀬戸内の島嶼部を結ぶフェリー・高速船は軒並み燃料費の影響を受けている。離島航路の運賃補助がなければ、もっと大幅な値上げになっていた路線もある。

中小観光事業者にとっての問いはシンプルだ。「移動コストが上がった分、来てもらう理由を増やせているか?」

値上げは止められない。燃料費は事業者の努力でどうにかなる話ではない。だからこそ、「移動コストが上がっても来たい」と思わせる体験価値の設計が急務になる。

岩国市のガチャガチャ観光——1回300円の「接点」が持つ破壊力

移動コストが上がる一方で、集客の入口コストを劇的に下げる動きが出ている。岩国市が周南市のアミューズメント会社「サードプラネット」と連携協定を結び、ガチャガチャを観光PRに活用する取り組みだ。

ガチャガチャ1回200〜500円。この価格帯で、観光情報・地域の特産ミニグッズ・割引クーポンなどを「体験」として届ける。

この仕組みが面白いのは、3つの理由がある。

第一に、設置コストが圧倒的に安い。 観光案内所を新設すれば数百万円。パンフレットを刷って配布しても、読まれるかどうかわからない。ガチャガチャなら機体のレンタルと中身の企画だけで始められる。初期投資は数万〜数十万円レベルだ。

第二に、「能動的な接触」が生まれる。 パンフレットは受動的だが、ガチャガチャは自分でハンドルを回す。この「自分で選んだ」という感覚が、情報の受容度を上げる。マーケティングの世界では当たり前の話だが、観光PRでこれを実装している自治体はまだ少ない。

第三に、SNSとの相性が良い。 「岩国でガチャガチャ回したら錦帯橋のミニチュア出た」——これはSNSに投稿したくなるコンテンツだ。1回300円の体験が、無料の口コミ広告を生む。広告換算すれば、1投稿あたりのリーチ単価は数円レベルまで下がる可能性がある。

従来、自治体の観光PRといえば、広告代理店に数百万〜数千万円を払ってキャンペーンを打つのが定番だった。それが、ガチャガチャ1台で「体験×情報発信×口コミ拡散」を同時に回せる。

これは岩国市だけの話ではない。中小観光事業者が「集客の入口」を自前で持てる時代になったということだ。

とびしま海道プロポーザル——行政が「体験コンテンツ」を外に求め始めた

もう一つ注目すべき動きが、とびしま海道における観光コンテンツ造成のプロポーザル(公募型企画提案)だ。

とびしま海道は、呉市の安芸灘大橋から下蒲刈島・上蒲刈島・豊島・大崎下島・岡村島へと続くルートで、しまなみ海道と比べると知名度は低い。だが、御手洗の歴史的町並みや、島ごとに異なる柑橘の風景など、「知る人ぞ知る」魅力がある。

今回のプロポーザルのポイントは、行政が「自分たちだけでは体験コンテンツを作れない」と認めたことにある。

これまで多くの自治体は、観光コンテンツを内製するか、大手旅行会社に丸投げするかの二択だった。しかし、内製では発想が限られ、大手に頼めば地域の細かい魅力は拾いきれない。プロポーザルで地域の中小事業者やクリエイターからアイデアを募る形は、この二択を超える第三の道だ。

中小事業者にとっては、これは明確なチャンスだ。行政の予算と自社の企画力を掛け合わせることで、単独ではできない規模の観光コンテンツを作れる。しかも、プロポーザルで採択されれば、行政の広報チャネルにも乗る。集客コストをさらに下げられる構造だ。

ただし、注意点もある。プロポーザルの仕様書を読み込み、行政が何を求めているかを正確に把握する力が必要だ。「うちの島はいいところです」では通らない。「誰に、何を、いくらで体験させ、リピート率をどう上げるか」まで設計できるかが勝負になる。

構造変化の本質——「移動コスト上昇×集客コスト低下」で何が起きるか

ここまでの3つの動きを整理すると、瀬戸内の観光業界で起きている構造変化が見えてくる。

コストの方向 影響
移動(フェリー等) 上昇 来訪のハードルが上がる
集客(ガチャガチャ・SNS等) 低下 認知・接点づくりは安くなる
体験コンテンツ造成 低下(公募・AI活用等) 企画・制作のハードルが下がる

この構造が意味することは明快だ。

「来てもらうコスト」は上がっているのに、「知ってもらうコスト」と「体験を作るコスト」は下がっている。

つまり、勝負は「来てもらった後の体験価値」に移る。

移動コストが上がれば、観光客は「せっかく来たんだから」と滞在時間を延ばし、体験にお金を使う傾向が強まる。日帰りが1泊になり、1泊が2泊になる。1回の訪問あたりの消費単価は上がる可能性がある。

これは中小観光事業者にとって追い風だ。大手ホテルチェーンや旅行会社にはできない、地域に根ざした「ここでしかできない体験」を提供できれば、移動コストの上昇分を体験価値で吸収できる。

逆に言えば、「来てもらえば何とかなる」という発想のままでは、移動コスト上昇のダメージをもろに受ける。

中小観光事業者が今やるべき3つのこと

では、具体的に何をすべきか。

1. 「移動コスト込み」で体験価値を設計する

フェリー代が上がった分、「フェリーに乗ること自体」を体験に変える発想が要る。例えば、フェリーの甲板から見える島々のガイド音声をスマホアプリで提供する。制作コストはAI音声合成を使えば数万円。移動時間が「退屈な移動」から「体験の始まり」に変わる。

2. 集客の入口を「小さく・安く・多く」作る

岩国のガチャガチャが示したのは、1回数百円の接点が大きな集客につながるという事実だ。ガチャガチャに限らず、LINEスタンプ、ご当地キャラのAR体験、地元の音声ガイドなど、初期投資10万円以下で作れる集客の入口はいくらでもある。大事なのは、1つに賭けるのではなく、小さな入口を複数持つこと。

3. 行政のプロポーザルに「乗る」

とびしま海道の公募のように、行政が体験コンテンツを外部に求める動きは今後増える。これに乗らない手はない。プロポーザルの情報は各自治体のウェブサイトで公開されている。まずは読むことから始めてほしい。企画書の書き方がわからなければ、AIに下書きを作らせればいい。ChatGPTに「とびしま海道の観光体験プランを企画書形式で」と打てば、たたき台は5分で出る。

で、結局どうなるのか

瀬戸内の観光業界は、移動コスト上昇という逆風と、集客・体験づくりのコスト低下という追い風を同時に受けている。

この風をどう使うかで、中小観光事業者の明暗は分かれる。

移動コストが上がった分、「来る理由」を増やす。集客コストが下がった分、「知ってもらう手段」を増やす。体験づくりのコストが下がった分、「やってみる」回数を増やす。

大企業のように広告費を積む必要はない。大手旅行会社のようにパッケージを組む必要もない。小さく、安く、速く動ける中小企業だからこそ、この構造変化に乗れる。

問いはひとつ。「このまま待っていて、お客さんは来るのか?」

答えがNoなら、今日から動くしかない。