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2026.07.09

広島港コンテナ減、しまなみ塔頂ツアー、高速バス学割──「外から来る金」が細るとき、中小企業は何で稼ぐか

結論から言う

広島港の国際コンテナが減っている。トランプ関税の影響で、アメリカ向け輸出が細り、港の取扱量は目に見えて落ちた。一方で、しまなみ海道では橋の塔頂に登れる体験ツアーが始まり、広島〜今治間の高速バスには学割が導入された。

この3つのニュースを並べたとき、見えてくる構造がある。

「外から来る金」が不安定になったとき、「中を回す金」の設計ができているかどうか。 これが、瀬戸内エリアの中小企業にとって、今いちばん切実な問いだ。

広島港で何が起きているか

広島港は、マツダをはじめとする自動車関連部品の輸出拠点として機能してきた。国際コンテナ取扱量は年間約8万TEU前後(20フィートコンテナ換算)。神戸や北九州と比べれば小さいが、広島経済圏にとっては「外貨を稼ぐ窓口」だ。

そこにトランプ関税が直撃した。自動車・鉄鋼・アルミへの追加関税は、広島の製造業にとって他人事ではない。港湾関係者への取材では「北米向けの荷動きが明らかに鈍い」という声が複数出ている。正確な減少幅は2025年度の統計を待つ必要があるが、国土交通省の速報値や業界ヒアリングを総合すると、北米向けコンテナは前年比で10〜20%程度の落ち込みが見込まれる状況だ。

ここで問いたいのは、「コンテナが減ったら、広島の中小企業はどうなるか」ということだ。

答えはシンプルで、輸出に連動する下請け仕事が減る。部品加工、梱包、物流、通関──サプライチェーンの末端にいる中小企業ほど、受注減の波をもろに被る。外から来る金が細ると、地域全体の購買力が下がる。飲食も小売も影響を受ける。これが「外貨依存モデル」のリスクだ。

しまなみ塔頂ツアーが面白い理由

そんな中で注目したいのが、しまなみ海道の「来島海峡大橋 塔頂体験ツアー」だ。

来島海峡大橋の主塔、高さ約184m。普段は立ち入れない塔の頂上まで登り、瀬戸内の多島美を360度見渡せる。春・秋の季節限定で、1回あたりの定員は少人数。料金は1人5,000円前後とされている。

このツアーの本質は「景色を売っている」のではない。「普段は入れない場所に入れる」という希少性を売っている

考えてみてほしい。しまなみ海道のサイクリングは無料だ。景色も無料。写真もSNSで見放題。つまり「景色」のコモディティ化はとっくに起きている。その中で、塔頂という「物理的にアクセスできない場所」に価値をつけた。これは賢い。

中小企業の視点で見ると、この構造は応用が利く。工場見学、漁船体験、石切り場ツアー──「普段は入れない場所」は地方にこそ山ほどある。問題は、それを「商品」にする設計力があるかどうかだ。予約システム、安全管理、ガイドの質、写真映えする動線。ここにこそ、小回りの利く中小企業の出番がある。

高速バス学割──「中を回す金」のインフラ

もうひとつ注目すべきは、広島〜今治間の高速バスに導入された学割だ。通常片道約3,600円のところ、学生は1,500円程度で乗れる。

「たかが学割」と思うかもしれない。だが、この施策の意味は大きい。

瀬戸内エリアの弱点は「横の移動コストが高い」ことだ。広島から今治まで、車がなければ新幹線+特急で1万円近くかかる。高速バスでも往復7,000円超。学生にとっては気軽に行ける金額ではない。

学割で片道1,500円になれば、往復3,000円。昼飯代とツアー代を足しても1万円以内で収まる。移動コストが下がれば、消費の選択肢が増える。 これは「中を回す金」のインフラ整備にほかならない。

地方経済の課題は、しばしば「魅力がない」と語られる。だが実際には「移動コストが高すぎて、魅力にアクセスできない」ケースのほうが多い。塔頂ツアーがいくら魅力的でも、そこに行くバス代が高ければ客は来ない。学割バスと塔頂ツアーがセットで機能して初めて、「中を回す金」の流れができる。

中小企業は「外の金」と「中の金」をどう設計するか

ここからが本題だ。

「外から来る金」と「中を回す金」は、どちらか一方で良いという話ではない。両方必要だ。問題は、今まで「外の金」に偏りすぎていたこと。そして、外の金が不安定になったときの備えがなかったこと。

中小企業が今やるべきことを、3つに整理する。

1. 外の金の「依存先」を分散する

アメリカがダメなら東南アジア、という単純な話ではない。そもそも「輸出の下請け」というポジション自体がリスクだ。自社で直接海外に売れる商品があるか。越境ECで月10万円でも売れる商材があるか。まずはそこから実験すべきだ。今はShopifyもBASEも月額数千円で越境ECが組める。300万かけて展示会に出る時代ではない。

2. 中の金の「回転数」を上げる

地域内で消費が回る仕組みを作る。塔頂ツアーの参加者が、帰りに大三島のクラフトビールを買い、今治タオルの工場見学に寄る。この「ついで消費」の動線を設計できるかどうか。

1人の観光客が5,000円のツアーだけで帰れば、地域に落ちる金は5,000円。だが、飲食2,000円、土産3,000円、もう1泊して宿泊8,000円となれば、1人あたり18,000円になる。単価ではなく「滞在中の総消費額」で設計する。 これは大手旅行代理店より、地元の中小企業連携のほうが圧倒的に得意な領域だ。

3. 「コストが下がったもの」を武器にする

AIで予約管理を自動化すれば、受付スタッフ1人分の人件費が浮く。多言語対応もAI翻訳で月額数千円。SNSの投稿文もAIで下書きできる。こうした「コストが劇的に下がったもの」を使い倒せるかどうかで、中小企業の競争力は大きく変わる。

大企業は稟議に3ヶ月かかる。中小企業は社長が「やろう」と言えば明日から動ける。この速度こそが、中小企業の最大の武器だ。

数字で見る「設計図」

仮に、しまなみエリアで以下のような経済循環モデルを組んだとする。

合計で約6,400万円。広島港のコンテナ減少による経済損失と比べれば微々たる額だ。だが、この6,400万円は地域の中小企業に直接落ちる金だ。港湾貿易の利益が大手商社や物流会社に吸い上げられる構造とは、質がまったく違う。

しかも、この数字はしまなみエリア単体の話だ。呉の軍港クルーズ、竹原の町並み保存地区、大崎上島の醸造所──瀬戸内エリア全体で同じ設計を横展開すれば、桁が変わる可能性がある。

このままでいいのか、という問い

広島港のコンテナが減っている。これは事実だ。だが、コンテナが戻るのを待つだけでは何も変わらない。

トランプ関税は一時的かもしれない。だが、地政学リスクは構造的に高まっている。次は中国との関係かもしれないし、台湾有事かもしれない。「外の金」が安定していた時代は、もう終わったと考えたほうがいい。

だからこそ、今のうちに「中を回す金」の設計図を描く。塔頂ツアーも学割バスも、単体では小さな施策だ。だが、それらを「地域経済の循環モデル」として設計し直したとき、中小企業にとっての生存戦略になる。

外の金が減ったとき、中の金で食えるか。 この問いに、今すぐ答えを出す必要がある。答えは会議室にはない。現場で、小さく、速く、実験するしかない。

瀬戸内の中小企業には、その力がある。問題は、やるかやらないかだ。