株式会社TradeSupport

2026.07.04

規格外レモン酎ハイ、赤毛米の日本酒、牡蠣カレーパン——瀬戸内「捨てていた素材」が売れる構造を解剖する

「捨てていたもの」が売れる。その構造を見逃すな

瀬戸内で、面白い動きが3つ同時に起きている。

規格外レモンが酎ハイになり、雑草扱いだった赤毛米が日本酒として10年生き残り、海外で強盗に遭った店主が牡蠣カレーパンで復活した。

共通点は一つ。「市場から弾かれた素材」に、別の文脈で値段をつけたということだ。

これは「もったいない精神」の美談ではない。中小企業が大手と違う土俵で戦うための、極めて合理的な構造の話だ。

規格外レモン酎ハイ——「廃棄コスト」が「仕入れ原価の安さ」に変わる瞬間

広島県を中心に展開する流通大手・イズミのPB「ゆめイチ」から、規格外レモンを使った酎ハイが登場した。1本あたり約200円。

ここで考えるべきは「なぜ規格外レモンが商品になるのか」という構造だ。

瀬戸内は国産レモンの生産量日本一。広島県だけで全国シェアの約6割を占める。当然、規格外品も大量に出る。形がいびつ、サイズが小さい、表面に傷がある——味は変わらないのに、青果として流通に乗らない。農家にとっては「出荷できないコスト」だ。

酎ハイの原料にしてしまえば、形もサイズも関係ない。果汁にした瞬間、規格外という概念が消える。

ポイントは2つある。

1つ目は、仕入れコストの構造的な優位性。 規格外品は市場価格がつかない。つまり、通常の仕入れより大幅に安く調達できる。農家側も廃棄するよりはるかにマシだから、双方にメリットがある。正確な仕入れ値は非公開だが、一般的に規格外の青果は正規品の3〜5割程度の価格で取引されるケースが多い。200円の酎ハイが成立する裏には、この原価構造がある。

2つ目は、「瀬戸内レモン」というブランドが乗ること。 規格外品であっても産地は瀬戸内だ。消費者にとっては「瀬戸内レモン使用」という価値は変わらない。むしろ「規格外品を活用している」という情報が、エシカル消費の文脈でプラスに働く時代になっている。

イズミという地場流通大手がPBで仕掛けている点も見逃せない。大手ナショナルブランドにはできない「地元の農家と直接つながる調達網」が、この商品を可能にしている。これは地場企業だからこそ持てる武器だ。

問いかけたいのは、レモン以外にも同じ構造が使えないか、ということだ。 瀬戸内にはみかん、はっさく、デコポンなど柑橘類が豊富にある。規格外品の加工商品化は、まだまだ余白がある。

赤毛米の日本酒「久蔵翁」——10年続いた事実が証明するもの

北広島町で生まれた赤毛米の日本酒「久蔵翁」が、今年で10周年を迎えた。

赤毛米。聞き慣れない人も多いだろう。明治〜昭和初期に広く栽培されていた在来種で、収量が少なく栽培効率が悪いため、品種改良の波の中で姿を消していった米だ。要するに「農業の近代化から弾かれた品種」である。

この米で日本酒を造る。普通に考えれば非効率の極みだ。

収量が少ないから原料コストは高い。流通量が少ないから安定供給も難しい。大手酒造メーカーが手を出す理由がない。

だからこそ、中小の酒蔵にとってはチャンスになる。

大手が参入しない領域には、価格競争がない。1本3,000円前後という価格設定は、一般的な純米酒と比べれば高めだが、「赤毛米」という唯一無二のストーリーと希少性がその価格を支えている。

10年続いたという事実は重い。地方の小さな日本酒ブランドが10年生き残るのは簡単なことではない。国税庁の統計によれば、日本の酒蔵数はこの20年で約3割減少している。その中で10年間、地元の飲食店やイベントを通じてファンを積み上げてきた。

ここから読み取れる構造はこうだ。

赤毛米の日本酒は、広告を大量に打たなくても「語りたくなる商品」だ。なぜこの米が消えたのか、なぜ復活させたのか。その物語自体がコンテンツになる。SNS時代において、これは広告費ゼロのマーケティング資産だ。

10年で証明されたのは、「非効率な素材ほど、小さなプレイヤーの武器になる」という逆説だ。

牡蠣カレーパン——逆境が生んだ「地元素材×日常食」の破壊力

広島市安佐北区で話題になっている「牡蠣カレーパン」。1個250円。

この商品の背景が強烈だ。店主は海外で強盗被害に遭い、経営的に追い込まれた。その逆境の中で生まれたのが、地元の牡蠣を使ったカレーパンだった。

注目すべきは、「牡蠣」という高級食材を「カレーパン」という日常食に落とし込んだ点だ。

広島の牡蠣は全国生産量の約6割を占める。つまり、地元では「高級品」というより「身近な食材」だ。しかし県外から見れば「広島=牡蠣」は強力なブランドイメージ。この内と外のギャップを、250円のカレーパンが橋渡ししている。

250円という価格は絶妙だ。牡蠣フライ定食なら1,000円以上する。牡蠣のオイル漬けの瓶詰めなら800円前後。でもカレーパンなら250円で「広島の牡蠣」を体験できる。観光客にとっては手軽な土産にもなるし、地元の人にとっては日常のパンとして買える。

SNSでの拡散も、この「意外性×手軽さ」が効いている。「牡蠣がカレーパンに入ってる」という驚きは、写真1枚で伝わる。これも広告費ゼロで広がるコンテンツだ。

逆境から生まれた、というストーリーも見逃せない。 人はV字回復の物語に惹かれる。「海外で強盗に遭って、牡蠣カレーパンで復活した」——これだけで記事になるし、テレビが取材に来る。商品力×物語の掛け算が、小さな店に大きな発信力を与えている。

3つの事例に共通する「逆転の構造」

ここまで見てきた3つの事例を並べると、共通する構造が浮かび上がる。

事例 捨てられていたもの 変換先 価格帯 武器
規格外レモン酎ハイ 形・サイズが規格外のレモン PB酎ハイ 約200円 原価の安さ×産地ブランド
赤毛米日本酒 品種改良で消えた在来米 希少日本酒 約3,000円 希少性×ストーリー
牡蠣カレーパン 経営危機という逆境 日常食 250円 意外性×手軽さ

共通点は3つだ。

① 大手が拾わないものを拾っている。 規格外品、非効率な在来種、逆境からの商品開発。いずれも大手企業の意思決定プロセスでは「やらない」と判断されるものだ。だからこそ競合がいない。

② 「加工」によって規格外という概念を消している。 レモンは果汁にすれば形は関係ない。赤毛米は日本酒にすれば収量の少なさは「希少性」に変わる。牡蠣はカレーパンに入れれば高級食材から日常食になる。加工とは、素材の評価軸を変える行為だ。

③ ストーリーが広告費を代替している。 3事例とも、商品の背景にある物語が強い。「規格外品を救う」「消えた米を復活させる」「強盗被害から復活」——いずれもメディアやSNSが自然に取り上げたくなる文脈を持っている。中小企業に潤沢な広告予算はない。だからこそ、語られる商品を作ることが最大のマーケティングになる。

で、結局どうすればいいのか

瀬戸内には「捨てられている素材」がまだまだある。

漁で混獲される未利用魚。摘果で落とされる未熟な柑橘。耕作放棄地に自生する山菜。観光シーズン以外に余る宿泊キャパシティ。食品に限らず、「本来は価値があるのに、既存の流通や評価基準に乗らないから捨てられているもの」は無数にある。

中小企業がやるべきことはシンプルだ。

1. 自分の周りで「捨てられているもの」をリストアップする。
原材料、時間、場所、スキル——何でもいい。「もったいない」と感じるものを全部書き出す。

2. 「加工」で評価軸を変えられないか考える。
形が悪い→液体にする。量が少ない→希少性にする。高すぎる→日常食に落とし込む。素材そのものではなく、素材の「見え方」を変える。

3. 語れるストーリーがあるか確認する。
「なぜこの素材なのか」「なぜ自分がやるのか」に答えられるか。答えられるなら、それは広告費ゼロのマーケティング資産だ。

今、AIの進化で商品開発のコストも劇的に下がっている。市場調査、パッケージデザイン、SNSの発信文——かつて外注すれば数十万円かかっていた工程が、ほぼゼロに近いコストで回せる時代だ。

「捨てていた素材」×「加工による評価軸の転換」×「語れるストーリー」。この掛け算ができる中小企業が、瀬戸内から次の10年をつくる。

まずは、自分の足元にある「捨てているもの」を見つけることから始めてほしい。