まず、このニュースの「数字」を冷静に見る
JA全農ひろしまが倒産寸前から年商132億円に復活した——そんな話がネットで拡散されている。だが、ここで立ち止まりたい。
JA全農ひろしまは県域の全農組織であり、個別の「農園」ではない。年商132億円という数字も、青ネギ単体で叩き出したわけではなく、県内の農畜産物全体の販売事業の規模感として捉えるべきだ。「倒産寸前」という表現も、JA組織の経営改革や事業再編の文脈で語られるべきもので、一般的な中小企業の倒産とは構造が違う。
つまり、「青ネギ爆盛りで132億円」というストーリーは、かなり盛られている可能性がある。
だが、それでもこのニュースには拾うべき本質がある。「売り方を変えるだけで、地方の農産物の数字は動く」という構造そのものは、間違いなく現実に起きていることだからだ。
青ネギ「爆盛り」で何が変わったのか
広島市内の外食シーンで、青ネギを大量に使ったメニューが増えているのは事実だ。お好み焼きにネギをこれでもかと載せる「ネギ盛り」は以前からあったが、ここ数年で居酒屋や定食屋にまで波及している。
なぜか。理由はシンプルで、青ネギは原価が安いからだ。
飲食店にとって、青ネギ1kg あたりの仕入れ価格は時期にもよるが200〜400円程度。100gの「爆盛り」をしても原価は20〜40円。見た目のインパクトは大きいのに、原価率はほとんど上がらない。SNS映えもする。客単価を上げなくても「お得感」を演出できる。
消費者側から見ても、物価高で外食を控えがちな中、700〜900円台で山盛りの青ネギが載った定食が出てくれば、満足度は高い。実際、広島市中心部の一部の店舗では、青ネギメニュー導入後に客数が1.2〜1.5倍に増えたという話もある。
ここで起きているのは、こういう構造だ。
- 飲食店:原価を抑えつつ、見た目と満足度で集客できる
- 消費者:安くてボリュームがあり、野菜も摂れる
- 生産者:安定した大口需要が生まれ、出荷量が増える
三方よし。だが、これは「青ネギが美味しいから」ではなく、「青ネギの原価構造が、今の外食市場の課題にハマったから」だ。ここを見誤ると、「うちも特産品でやろう」という安易な模倣で失敗する。
コスト構造の変化が「売れるもの」を変える
少し引いて考えたい。
2023年以降、外食産業の原材料費は軒並み上がっている。鶏肉は2割増、食用油は3割増、小麦粉も高止まり。飲食店の原価率は30%が目安と言われるが、値上げしなければ35〜40%に迫る店も出てきた。
この状況で、「原価が安くて、量を出せて、見栄えがする食材」の価値が相対的に上がった。青ネギはまさにそこにハマった。
これは青ネギに限った話ではない。もやし、豆苗、キャベツ、大根——原価が安くてかさのある野菜は、今の外食市場で「武器」になり得る。
地方の中小農家にとって、ここにチャンスがある。
従来、地方の農産物は「ブランド化して高く売る」が正攻法とされてきた。広島レモン、瀬戸内の柑橘、比婆牛。もちろんそれは大事だ。だが、ブランド化には時間もコストもかかる。認知を取るためのPR費用、品質管理のコスト、流通の整備。年商数千万円規模の農家には、正直ハードルが高い。
一方、「安くて大量に使える食材を、外食の現場に直接つなぐ」というアプローチは、ブランド化とは真逆の戦略だ。単価は低いが、量が出る。量が出れば、生産計画が立てやすくなる。生産計画が立てば、設備投資の判断もしやすい。
ブランド化は「単価×少量」。爆盛り戦略は「低単価×大量」。 どちらが正しいかではなく、自分の経営体力と作れる量で選ぶべきだ。
「売り方」を変えるとは、流通を変えるということ
もう一つ、この事例で見逃せないのは流通の話だ。
青ネギが外食で大量消費されるようになった背景には、JA全農ひろしまが外食チェーンや地元飲食店と直接連携し、市場流通を通さないルートを作ったことがある。
通常、農産物は「農家→JA→卸売市場→仲卸→飲食店」という流れを辿る。この間に中間マージンが乗り、農家の手取りは小売価格の30%程度まで下がることも珍しくない。
これを「農家→JA→飲食店」に短縮すれば、農家の手取りは上がり、飲食店の仕入れ価格は下がる。双方にメリットがある。
ただし、これには条件がある。安定した量を、安定した品質で、決まったタイミングで届けられるか。個人農家単体では難しいが、JAや農業法人が間に入ることで実現できる。
ここに、中小企業が学ぶべき構造がある。
「いいものを作れば売れる」時代はとっくに終わっている。「誰に、どのルートで、どの量で届けるか」を設計すること自体が、商品開発と同じかそれ以上に重要だということだ。
中小の食関連事業者は、何をすべきか
具体的に落とし込む。
1. 地元の外食店と「使い方」を一緒に考える
農産物を「素材」として卸すだけでなく、メニュー開発に関わる。青ネギ爆盛りのように、「この食材をこう使えば、原価を抑えて客を呼べる」という提案ができれば、飲食店にとっては仕入れ先ではなくパートナーになる。
2. SNSでの「映え」を意識した出荷形態を考える
爆盛り青ネギがウケたのは、写真映えするからだ。飲食店が「盛りやすい」カット済みパック、彩りを意識した品種選定。出荷する側が「消費者の写真」まで想像できるかどうかで、採用率は変わる。
3. 流通コストを数字で把握する
市場流通と直接取引で、手取りがいくら変わるのか。配送コストはいくらかかるのか。ここを感覚ではなく数字で把握している農家は、驚くほど少ない。まずは自分の農産物の「流通コスト構造」を一度洗い出すことから始めるべきだ。
4. 「ブランド化」と「量販」を二項対立にしない
高単価のブランド品と、外食向けの量販品を同じ圃場で作り分ける。A品はブランドとして直売所やECで高く売り、B品・C品は外食向けに大量出荷する。この「二刀流」ができれば、廃棄ロスも減り、売上の安定性が格段に上がる。
広島・瀬戸内で、この構造はどこまで広がるか
広島には青ネギ以外にも、この「爆盛り戦略」にハマりそうな食材がある。
- 広島菜:漬物以外の用途開発が進めば、サラダや鍋の具材として大量消費の余地がある
- 瀬戸内レモン:すでにブランド化は進んでいるが、搾汁後の果皮や規格外品を外食向けに安価に流す仕組みはまだ弱い
- もやし・スプラウト類:広島県内に生産拠点があり、原価が極めて低い。外食との直接連携で伸びる余地は大きい
一方で、課題もある。
広島市内の外食市場は、人口約120万人の都市としては活発だが、東京や大阪と比べれば規模は小さい。「爆盛り」で量を出すには、ある程度の外食市場の厚みが必要だ。県内だけで完結させるのか、関西・九州まで商圏を広げるのか。物流コストとの兼ね合いで、最適解は変わる。
また、青ネギの生産量が増えれば、当然ながら単価は下がる。生産者が「量を出して薄利で回す」モデルに耐えられるかどうかは、経営体力次第だ。全農のような組織がバッファになれるうちはいいが、個人農家が同じ戦略を取れるかは別問題だ。
結局、何が起きているのか
まとめる。
「青ネギ爆盛りで年商132億円」という見出しは、正直そのまま鵜呑みにはできない。だが、その裏にある構造——物価高で外食の原価構造が変わり、「安くてかさのある食材」の価値が相対的に上がった。そこに流通の短縮と外食連携を組み合わせることで、地方の農産物に新しい需要が生まれた——これは本物だ。
そして、この構造は青ネギだけのものではない。
地方の中小の食関連事業者にとって、問いはシンプルだ。
「あなたの食材は、今の外食市場のどの課題を解決できるか?」
ブランド化だけが答えじゃない。「安くて、量が出せて、見栄えがする」——その価値を、流通の設計とセットで提案できるかどうか。
売り方を変えるだけで、数字は動く。ただし、「変える」とは、見せ方を変えることではなく、届け方の構造を変えることだ。そこを履き違えると、ただの一過性のバズで終わる。
広島の青ネギが教えてくれているのは、そういうことだと思う。
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