広島は「人が来ない」のではない。「人を追い出す構造」になっている。
定員割れの高校が不合格者を出す。企業の口コミが若者を県外に押し出す。それでも東京に出向いて「広島で働きませんか」と説明会を開く。この3つはバラバラの問題に見えて、根っこは同じだ。「選ぶ側の論理」が、来てほしい人を遠ざけている。
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定員割れなのに落とす——教育の「自己矛盾」
広島県の公立高校の定員割れは全国ワースト級だ。2023年度入試では、全日制で定員に達しなかった高校が全国4番目に多かった。ここまでは「少子化だから仕方ない」で片付けられるかもしれない。
問題はその先にある。定員が埋まっていないのに、不合格者を出している学校がある。
定員40人の学校に35人が受験し、合格は30人。5人が落ちて、10席が空いたまま。こんなことが実際に起きている。広島県教育委員会は「合格者の決定は各学校が適切に行っている」と説明するが、「適切」の定義がそもそもおかしくないか。
学校側の論理はこうだ。「学力が基準に満たない生徒を入れると、教育の質が下がる」。一見もっともに聞こえる。だが、その結果どうなるか。生徒数はさらに減り、教員配置の基準を下回り、学科やコースが統廃合され、最終的に学校そのものがなくなる。教育の質を守るために生徒を落とした結果、教育の場自体が消滅する。これは「質の維持」ではなく「緩やかな自殺」だ。
地方の高校が担っている役割は、偏差値による選別だけではない。その地域に15歳の居場所をつくること、地元で学び、地元を知る機会をつくること。それ自体が地域の人材パイプラインの入口になっている。入口を自ら狭めてどうするのか。
定員割れの高校がやるべきことは、入試で落とすことではなく、入学後に伸ばす仕組みをつくることだ。学力が足りないなら、入ってから底上げすればいい。実際、全国にはそうやって生徒を集め、進学実績も就職実績も上げている高校がある。広島の教育現場は「選ぶ側の論理」から「育てる側の論理」に切り替えるタイミングに来ている。
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口コミが「広島で働くな」と言っている
高校を出た若者は、次に就職先を選ぶ。ここで広島は2つ目の壁にぶつかる。
企業口コミサイトに蓄積された約5万件の投稿を分析すると、広島県内企業——特に中小企業——に対する評価には明確な傾向がある。「賃金が低い」「成長機会が少ない」「年功序列が根強い」。この3点がセットで語られるケースが非常に多い。
数字で見ると輪郭がはっきりする。広島県の2022年の転出超過は約1,500人。特に20代前半の流出が顕著だ。彼らが向かう先は圧倒的に東京・大阪。そして一度出た若者は、なかなか戻らない。広島県のUターン率は全国平均を下回る水準で推移している。
ここで考えたいのは、口コミの「事実」と「構造」の違いだ。
「賃金が低い」——これは事実として、広島県の平均年収は東京と比べて約100万円低い。だが生活コストも違う。広島市内の家賃相場は東京23区の半分以下。可処分所得で比較すれば、差は大幅に縮まる。問題は、その比較を企業側がちゃんと伝えていないことだ。
「成長機会が少ない」——これも中身を分解する必要がある。大企業には研修制度があり、ジョブローテーションがある。中小企業にはそれがない代わりに、入社2年目で顧客折衝の最前線に立てる、3年目でプロジェクトを任される、という「実戦での成長速度」がある。だが、それを言語化して伝えている中小企業がどれだけあるか。
口コミは「事実の記録」ではなく「語られ方の集積」だ。企業が自社の価値を言語化しなければ、不満だけが蓄積される。そして今の若者は、企業HPより先に口コミサイトを見る。採用ページに何を書くかより、口コミに何が書かれているかのほうが、採用力を左右する時代になっている。
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東京で説明会を開く——その構造的な矛盾
定員割れの高校で若者を減らし、口コミで若者を追い出した先に、広島の企業がやっていることは何か。東京に出向いて「広島で働きませんか」と合同説明会を開くことだ。
6月28日に開催される「ひろしまで働こうや」合同就職説明会。広島拠点の企業が東京に集結し、Uターン・Iターン希望者にアプローチする。取り組み自体は否定しない。だが、構造を冷静に見てほしい。
東京で説明会を1回開くコストは、会場費・交通費・人件費を合わせて1社あたり30〜50万円。 中小企業にとって軽い投資ではない。そして、そこで出会える求職者は数十人。マッチングして実際に入社に至るのは、良くて数人だろう。1人あたりの採用コストは100万円を超える計算になる。
一方で、今いる社員の口コミを改善するコストはいくらか。労働環境の見直し、評価制度の透明化、社内コミュニケーションの改善——これらは月数万円のツール導入と、経営者の意思決定だけで始められるものも多い。口コミスコアが0.5ポイント上がれば、自然応募が増える。採用コストは劇的に下がる。
東京に人を取りに行く前に、広島から人が出ていく蛇口を閉めるほうが先ではないか。
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中小企業が今日から打てる手——5つの具体策
抽象的な「環境改善」では動けない。中小企業の経営者が明日からできることを、コスト感つきで整理する。
1. 口コミへの「公式回答」を始める(コスト:月0円〜)
OpenWorkやGoogleの口コミに、経営者自身が丁寧に返信する。ネガティブな口コミを消すのではなく、「その指摘を受けて、こう改善した」と書く。これだけで求職者の印象は変わる。コストはゼロ。必要なのは経営者の覚悟だけだ。
2. 給与の「見せ方」を変える(コスト:0円)
「月給22万円」だけでは東京の企業に負ける。だが「月給22万円+家賃補助3万円。広島市内の1LDKは月5万円。東京で同じ生活をすると月給30万円相当」と書けば、話は変わる。可処分所得ベースでの比較を、求人票に明記する。
3. 「3年後の姿」を社員の言葉で語る(コスト:撮影機材数万円)
入社3年目の社員に「今どんな仕事をしているか」を語ってもらう動画を撮る。スマホで十分だ。大企業の研修制度には勝てなくても、「入社2年目で取引先の社長と直接交渉している」というリアルは、成長意欲のある若者に刺さる。
4. 高校との接点を再構築する(コスト:時間のみ)
定員割れに苦しむ地元の高校に、インターンシップや職業体験の枠を提供する。高校側は生徒に「この地域で働く未来」を見せたい。企業側は将来の採用候補と早期に接点を持てる。双方にメリットがある。だが、実際にやっている中小企業は驚くほど少ない。
5. AIで採用業務のコストを下げる(コスト:月数千円〜数万円)
求人票の作成、スカウトメールの文面、面接日程の調整——これらはAIツールで大幅に効率化できる。従来、採用担当者1人が月40時間かけていた業務が、10時間以下になる事例も出ている。浮いた時間を「候補者と直接話す時間」に回せば、マッチングの精度が上がる。中小企業は採用に専任担当を置けないからこそ、AIとの相性がいい。
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「人が来ない」は結果であって、原因ではない
定員割れ高校の不合格、企業口コミによる若者流出、東京での合同説明会——この3つを並べると見えてくるのは、「来てほしいのに、自分たちが追い出している」という構造だ。
高校は「質を守る」ために生徒を落とし、結果として地域の教育基盤を弱める。企業は自社の価値を言語化せず、口コミに評価を委ね、結果として若者を失う。そして失った若者を取り戻すために、高いコストをかけて東京に出向く。
この三重構造を壊すのは、実はそれほど難しくない。必要なのは「選ぶ側」から「選ばれる側」への意識の転換だ。
高校は「入れてから育てる」に舵を切る。企業は口コミに向き合い、自社の価値を自分の言葉で語る。東京に出向く前に、地元の高校生や大学生との接点をつくる。
広島の人口は約280万人。瀬戸内の穏やかな気候、東京より圧倒的に低い生活コスト、ものづくり産業の集積——素材は揃っている。足りないのは素材ではなく、素材の「見せ方」と「届け方」だ。
「人が来ない」と嘆く前に、「人を追い出していないか」と問うこと。 そこが、すべての出発点になる。
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