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2026.06.16

五日市に商業施設が密集し、府中町は「市」を目指す——広島都市圏の「膨張と空洞」を人口動態で読む

結論から言う。広島都市圏は「外に膨らみ、中が抜けている」

五日市に商業施設が集中し、府中町は市制移行を目指す。一見すると郊外の発展に見える。だが同時に、広島県は5年連続で転出超過。特に20〜30代の若者が流出し続けている。

商圏は膨らんでいるのに、人は減っている。

この矛盾を、地方の中小企業はどう読むべきか。出店するのか、撤退するのか。採用できるのか、できないのか。「広島は元気です」では済まない構造変化が、数字に表れている。

五日市の商業集積——「便利になった」の裏側

広島市佐伯区の五日市地区は、ここ数年で商業施設の出店・改装ラッシュが続くエリアだ。THE OUTLETS HIROSHIMA(ジ アウトレット広島)を核に、ジアウトレット周辺やコイン通り沿いには飲食・物販が次々と出店している。2023年にはアルパーク西棟がリニューアルオープンし、東棟の再開発計画も進行中だ。

中国新聞デジタルの報道によれば、五日市エリアの商業床面積はこの5年間で約1.2倍に増加したとされる。広島市中心部(紙屋町・八丁堀)の空室率が上昇傾向にある中で、郊外のロードサイド型・モール型施設に人が流れている構図だ。

これは消費者にとっては選択肢が増えた話だが、中小の小売・飲食にとっては別の意味を持つ。

大型施設が来れば、集客力は上がる。だが家賃も上がる。人件費も上がる。競合も増える。

五日市エリアのテナント賃料は、坪単価で1万〜1.5万円台が相場だったが、新規モール周辺では2万円を超える物件も出てきている。月坪2万円×30坪なら月額60万円。年間720万円の固定費だ。売上が月200万円の個人店にとっては、出店判断そのものが経営判断になる。

「商業施設が増えて地域が活性化」という一面的な見方では、中小企業の現場は見えない。

府中町の「市制移行」——ブランドか、生存戦略か

広島市に四方を囲まれた安芸郡府中町。人口約5.1万人。全国の「町」の中で最も人口が多い自治体の一つだ。マツダの本社工場を擁し、税収基盤は比較的安定している。

2024年、府中町は市制移行に向けた初の住民説明会を開催した。町の説明では「市になることでブランド力が向上し、企業誘致や定住促進につながる」とされた。

だが、住民の反応は割れている。「いまのままで十分」「市になったら住民税が上がるのでは」という声が複数あがった。

冷静に見れば、府中町の課題は「市か町か」という名称の問題ではない。

問題は、広島市に呑み込まれるか、独自の経済圏を維持できるかだ。

府中町の2023年度の一般会計予算は約230億円。マツダ関連の法人税収が大きいが、マツダがEVシフトで生産体制を再編すれば、この構造は揺らぐ。実際、マツダは2024年に防府工場(山口県)でのEV生産を発表しており、府中町の工場の位置づけは今後変わりうる。

市制移行は、そうした「マツダ依存からの脱却」を見据えた布石とも読める。だが、名前を変えるだけでは企業は来ない。問われるのは、町(市)として何の産業を育てるのか、という中身だ。

中小企業の視点で言えば、府中町は広島市中心部へのアクセスが良く、家賃は市内より2〜3割安い。オフィス賃料で言えば、広島市中区が坪8,000〜12,000円のところ、府中町周辺は5,000〜7,000円台。IT系やバックオフィス機能の移転先としてはポテンシャルがある。

市制移行の議論そのものより、「府中町に拠点を置く合理性があるかどうか」を中小企業は自分の数字で判断すべきだ。

若者の広島離れ——数字が示す「選ばれない都市」の現実

ここが最も深刻な話だ。

総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、広島県は2019年から2023年まで5年連続で転出超過。2023年の転出超過数は約4,200人。そのうち20〜34歳が約6割を占める。

流出先は東京圏が最多だが、近年は大阪・福岡への流出も増えている。特に福岡市との「人材争奪戦」は深刻だ。福岡市は2023年に人口160万人を突破し、スタートアップ支援や天神ビッグバンなどの都市再開発で若者を引きつけている。

広島市の人口は約118万人(2024年1月時点)。政令指定都市の中では11位だが、増加率ではすでにマイナスに転じている。

なぜ若者は広島を出るのか。

転職サイトのクチコミデータや各種調査を総合すると、理由は明確だ。

  1. 給与水準の低さ — 広島県の平均年収は約420万円(厚労省・賃金構造基本統計調査2023年)。東京都の約580万円、福岡県の約430万円と比べても見劣りする。特にIT・クリエイティブ職の求人単価が低い。
  2. キャリアの選択肢の少なさ — 広島の産業構造は製造業(マツダ、自動車部品)と金融(ひろぎんHD)に偏っている。SaaS、コンサル、スタートアップといった「20代が成長実感を持てる職種」の絶対数が少ない。
  3. 都市の「楽しさ」の不足 — これは定量化しにくいが、福岡の天神・大名エリアや東京の渋谷・下北沢のような「歩いて楽しい街」の面積が広島は狭い。本通り商店街の歩行者通行量はピーク時の7割程度まで減少しているとの調査もある。

中小企業にとって、これは「採用できるかどうか」の問題に直結する。

広島で20代のエンジニアを採用しようとすれば、年収400万円では東京のリモートワーク案件(500〜600万円)に負ける。かといって600万円を出せる中小企業は少ない。

人が減る街で、商業施設だけが増えている。この構造的な矛盾に、どう向き合うか。

「膨張と空洞」の正体——中小企業はどう動くべきか

整理しよう。

この2つは別々の現象ではない。郊外に大型施設ができるから中心部が空洞化し、街の魅力が落ちるから若者が出ていく。若者が減るから中心部の消費が落ち、さらに郊外のモールに人が流れる。負のスパイラルだ。

では、地方の中小企業はどうすればいいのか。

1. 出店判断は「商圏人口」ではなく「商圏の年齢構成」で見る

五日市エリアの商圏人口は約15万人とされるが、重要なのは年齢別の構成だ。高齢化率が高いエリアでは、商業施設が増えても客単価は上がりにくい。国勢調査の小地域データとjSTAT MAPを使えば、町丁目単位で年齢構成は無料で確認できる。AIツールを使えば、この分析は1日で終わる。

2. 採用は「広島在住者」だけを見ない

リモートワークが普及した今、採用市場は全国だ。広島の中小企業が東京の人材を「広島の生活コスト」と「瀬戸内の暮らしやすさ」でアピールする戦略は十分に成立する。実際、尾道や福山でリモートワーカーを受け入れている企業は増えている。月額15万円の家賃で庭付き一戸建てに住める——これは東京では不可能だ。

3. 府中町の動きは「不動産コスト」のシグナルとして読む

市制移行が実現すれば、府中町の地価は短期的に上がる可能性がある。逆に言えば、今のうちに府中町エリアで拠点を確保するのは合理的な選択肢だ。特にバックオフィスや倉庫機能は、広島市中心部に置く必要がない。

4. 「広島都市圏」ではなく「瀬戸内経済圏」で考える

広島市単体で福岡や東京と張り合っても勝ち目は薄い。だが、広島・呉・竹原・尾道・福山・しまなみ海道を含む「瀬戸内経済圏」として見れば、観光客数は年間3,000万人を超えるポテンシャルがある。2023年の広島県の観光客数は約6,300万人(延べ人数、広島県観光統計)。この人流をどう自社のビジネスに取り込むかが、中小企業の生存戦略になる。

問いかけ

五日市にモールが増えた。府中町が市を目指す。若者は広島を出ていく。

この3つの事実を並べたとき、あなたの会社は何を判断するか。

「広島は元気です」という空気に流されず、自社の数字で、自社の判断をする。 それが、人口減少時代の地方中小企業に求められる経営そのものだ。

商圏は変わる。人口は減る。だが、変化の中にこそ、中小企業が大手に先んじるチャンスがある。大型モールは出店に2年かかる。中小企業なら2ヶ月で動ける。

速さと判断力。それが、地方の中小企業に残された最大の武器だ。