同じ広島で、片方は過去最高益、片方は7割減。何が起きているのか
ひろぎんホールディングス、純利益437億円で過去最高。マツダ、営業利益7割減の516億円。
同じ広島に本拠を置く2社が、同じ年度決算でここまで真逆の結果を出した。これは偶然じゃない。金利上昇・円安・関税という3つの構造変化が、業種によって「追い風」にも「逆風」にもなるという、教科書のような事例だ。
そして、この構造は広島の中小企業にとっても他人事ではない。むしろ、大企業以上にダイレクトに効いてくる。
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ひろぎんHD:金利上昇と船舶融資で「地銀の勝ちパターン」を体現
ひろぎんHDの数字を整理する。
- 純利益:437億円(過去最高)
- 経常収益:2,512億円
- 船舶融資残高:1兆3,000億円見込み(前年比約4割増)
最大の要因は明確だ。金利上昇による利ザヤの拡大。
長らく地銀はゼロ金利に苦しんできた。貸しても貸しても利ザヤが薄く、手数料ビジネスや投資信託の販売で糊口をしのぐ時代が続いた。それが日銀の利上げで一変した。貸出金利が上がれば、融資残高がそのまま収益に変わる。地銀にとっては十数年ぶりの「本業回帰」だ。
もう一つ見逃せないのが船舶融資の急拡大だ。広島銀行は船舶融資を4割増やし、残高1兆3,000億円に達する見込み。瀬戸内は造船業の集積地であり、今治・尾道・呉といった造船所群への融資は、地の利を活かした戦略と言える。世界的な船舶需要の回復と新造船価格の上昇が、この融資拡大を支えている。
日銀広島支店は地域経済を「緩やかな回復基調」と評価しているが、その回復の果実を最も効率よく刈り取ったのがひろぎんHDだった、ということだ。
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マツダ:円安なのに利益7割減。何が起きたのか
一方、マツダの数字はこうだ。
- 営業利益:516億円(前期比約7割減)
- 世界販売台数:122万台(前年割れ)
- 通期売上高も減収
「円安なら輸出企業は儲かるはずでは?」——そう思った人は多いだろう。実際、かつてはそうだった。だが今のマツダを取り巻く構造は、単純な為替メリットが効かないほど複雑になっている。
第一に、関税の直撃。 米国の関税政策がマツダの北米事業を直撃した。マツダは日本からの完成車輸出比率が高く、現地生産比率が低い。関税が上がれば、円安で得た為替差益を関税コストが食い潰す。トヨタやホンダのように北米に大規模工場を持つメーカーとは、ここで決定的な差がつく。
第二に、輸入部材コストの上昇。 円安は輸出には有利だが、原材料・部品の輸入コストを押し上げる。鉄鋼、半導体、電子部品——製造業のサプライチェーンはグローバル化しており、「円安=輸出企業に追い風」という単純な図式はもう成り立たない。
第三に、電動化投資の重さ。 マツダはハイブリッド車(HV)の拡大を急いでいるが、電動化にはエンジン車とは別の生産ライン、バッテリー調達、ソフトウェア開発が必要になる。投資は膨らむが、販売台数は伸びない。利益が圧迫されるのは構造的に避けられない。
要するに、「為替」「関税」「投資負担」の三重苦だ。しかもこの3つは短期で解消する性質のものではない。
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「勝ち組・負け組」ではなく、「構造の違い」を読め
ここで問いたい。ひろぎんHDが「勝ち組」でマツダが「負け組」なのか?
違う。同じ経済環境の変化が、ビジネスモデルの違いによって正反対の結果を生んだだけだ。
整理するとこうなる。
| 構造変化 | ひろぎんHDへの影響 | マツダへの影響 |
|---|---|---|
| 金利上昇 | 利ザヤ拡大で増益 | 設備投資の資金調達コスト増 |
| 円安 | 外貨建て資産の評価益 | 輸入部材コスト増、関税との相殺 |
| 関税強化 | 直接影響なし | 北米向け完成車輸出に直撃 |
| 船舶需要増 | 融資拡大の好機 | 直接関係なし |
この表を見れば分かる通り、今の経済環境は「金融・内需型」に有利で、「製造・輸出型」に不利な構造になっている。
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中小企業にとって、これは何を意味するか
ここからが本題だ。広島・瀬戸内の中小企業にとって、この構造変化はどう効いてくるか。
金利上昇:借入コストは確実に上がる
ひろぎんHDの利益が増えたということは、裏を返せば借り手が払う金利が増えたということだ。銀行の利益は、企業のコストの裏返しでもある。
中小企業の平均借入金利が0.5%上がるだけで、借入1億円あたり年間50万円のコスト増。5億円借りていれば250万円。これは中小企業にとって、社員1人分の人件費に相当する。「金利が上がった」というニュースを他人事だと思っている経営者は、今すぐ自社の借入条件を確認すべきだ。
円安と関税:下請け製造業は二重の圧力
マツダの業績悪化は、マツダ1社の問題では終わらない。広島にはマツダの下請け・協力企業が数百社ある。マツダの販売台数が減れば、部品の発注量が減る。マツダがコスト削減に動けば、下請けへの値下げ要請が強まる。
さらに、下請け企業自身も輸入原材料の価格上昇に直面している。元請けからは値下げを求められ、仕入れコストは上がる。 この「挟み撃ち」構造は、広島の製造業中小企業にとって深刻な問題だ。
船舶融資の拡大:瀬戸内の造船関連にはチャンス
一方で、明るい材料もある。船舶融資が4割増ということは、造船所への発注が増えているということだ。今治造船、常石造船など瀬戸内の造船大手が活況なら、その周辺の鉄工所、塗装業、電装業にも仕事が回る。
造船は裾野が広い。1隻の船に関わる部品・素材メーカーは数百社に及ぶ。自動車のサプライチェーンが縮小する中で、造船のサプライチェーンが拡大している。この入れ替わりを見逃すべきではない。
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で、中小企業は何をすべきか
抽象論は要らない。具体的に3つ。
1. 借入条件を今すぐ見直せ。
金利上昇局面では、固定金利への切り替え、借り換え、返済期間の見直しが急務だ。銀行は金利が上がるほど儲かる。交渉しなければ、黙ってコストが増えるだけだ。ひろぎんの最高益は、裏を返せば「交渉余地がある」ということでもある。
2. 売上の依存先を分散しろ。
マツダ1社に売上の大半を依存している下請けは、今回の決算で危機感を持ったはずだ。造船、半導体、食品加工——瀬戸内には自動車以外の産業もある。取引先の分散は、1年や2年では完了しない。だから今すぐ動く必要がある。
3. 「金利上昇=悪」と決めつけるな。
金利が上がるということは、預金金利も上がるということだ。手元資金に余裕がある企業は、資金運用の選択肢が広がる。また、金利上昇で競合他社が投資を控えれば、逆に攻めるチャンスにもなる。環境変化を一面的に捉えず、自社にとっての意味を考えることが重要だ。
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広島経済の「次の5年」を決めるもの
ひろぎんHDの最高益とマツダの7割減益。この対比が示しているのは、広島経済が「自動車城下町」一本足打法のリスクに直面しているという現実だ。
マツダが復活するかどうかは、関税交渉と電動化戦略の成否にかかっている。だが、それは中小企業がコントロールできる変数ではない。
コントロールできるのは、自社のビジネスモデルをどの構造変化の「追い風」側に置くかという判断だ。
金利上昇、船舶需要、インバウンド、半導体——瀬戸内には追い風が吹いている領域がある。その風を捕まえるために動くのか、従来の取引先にしがみつくのか。
広島経済の次の5年は、大企業の業績ではなく、中小企業の経営者がこの構造変化をどう読み、どう動くかで決まる。
数字は出揃った。あとは、動くかどうかだ。
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