結論から言う。広島の中小企業は今、三方向から殴られている
電気代が上がる。オイルが届かない。鉄鋼が買えない。
原因はひとつ。中東だ。
中国電力は2年連続の減益を発表し、6月の電気料金はさらに上がる。自動車整備の現場では「車検に使うオイルが安定して入らない」という声が出始めた。建設業の倒産は広島県内で年間50件を超えるペースに達している。
ホルムズ海峡という、日本から8,000km離れた海の出口が詰まるだけで、広島の町工場や整備工場や建設現場が同時に苦しくなる。この構造を、数字で見ていく。
—
第一の打撃:中国電力2年連続減益、電気代はさらに上がる
中国電力の2025年度決算は売上高1兆4,423億円、営業利益520億円。前年度比で減収減益だ。中川賢剛社長は燃料費の高止まりを主因に挙げた。
背景にあるのは、LNG(液化天然ガス)と原油の輸入価格だ。日本のLNG輸入量の約2割は中東経由。ホルムズ海峡の緊張が続く限り、調達コストにリスクプレミアムが乗り続ける。中国電力は火力発電比率が依然として高く、この燃料費上昇をもろに食らう構造にある。
2026年度の業績見通しも厳しい。会社側は営業利益のさらなる減少を示唆しており、6月の規制料金改定では標準家庭で月額300〜500円程度の値上げが見込まれている。
「月500円なら大したことない」と思うかもしれない。だが、広島県内の世帯数は約120万。単純計算で月6億円、年間72億円が県内の家計から電気代に吸い上げられる。その分だけ、地元の飲食店や小売店に落ちるはずだった金が消える。
中小企業への影響はもっと直接的だ。従業員30人規模の製造業で月の電気代が80万円だとする。5%の値上げで月4万円増、年間48万円。パート1人分の月給に相当する。電気代が上がるたびに、雇用の余力が削られていく。
—
第二の打撃:「オイルが届かない」——車検が止まるリスク
広島県内の自動車整備工場数は約2,800。マツダのお膝元だけに、自動車関連産業の裾野は広い。その現場で今、じわじわと効いているのがオイル・塗料の調達不安だ。
エンジンオイルの原料は石油。塗料の溶剤も石油由来。中東からの原油供給に不安が生じれば、価格が上がるだけでなく、そもそも「モノが入ってこない」事態が起こりうる。
実際、エンジンオイルの仕入れ価格はこの1年で約20%上昇している。1リットルあたり1,500円だったものが1,800円前後に。普通車の車検で使うオイルは4〜5リットルだから、オイル代だけで1台あたり1,200〜1,500円のコスト増だ。これにフィルター類や塗料の値上がりを加えると、車検1台あたりの原価は3,000〜5,000円上がっている計算になる。
問題は、これを価格に転嫁できるかどうか。車検はユーザーにとって「やらなきゃいけないけど、安いほうがいい」ものだ。ネット比較で最安値を選ぶ消費者が増えている中、値上げは客離れに直結する。
ある整備工場の経営者はこう言う。「仕入れは上がる、客は安さを求める。利益が出ないのに車検をやり続けている状態。オイルの供給が本当に止まったら、車検そのものが回せなくなる」。
さらに怖いのは、ホルムズ海峡が実際に封鎖された場合のシナリオだ。日本の原油輸入の約9割が中東経由で、その大半がホルムズ海峡を通過する。封鎖が長期化すれば、オイルの価格高騰どころか物理的な欠品が起きる。車検ができない、つまり車に乗れない人が出る。広島のような車社会では、生活インフラそのものが止まることを意味する。
—
第三の打撃:建設業倒産、10年ぶりに年間50件超ペース
広島県内の建設業倒産が急増している。2024年度は約10年ぶりに50件を超える見込みで、その主因は資材価格の高騰だ。
鉄鋼価格はこの1年で約25%上昇。H形鋼のトン単価は13万円台から16万円台に跳ね上がった。木造住宅1棟でも鉄筋基礎や金物で鉄鋼を使う。鉄骨造のビルや工場なら、鉄鋼価格の上昇がそのまま数百万円単位のコスト増になる。
コンクリートも同様だ。セメントの製造には大量の電力が必要で、電気代の上昇がセメント価格に転嫁される。生コンの価格は1立米あたり1,000〜1,500円上がっており、基礎工事だけで数十万円のコスト増が発生している。
建設業の利益率はもともと薄い。国土交通省の統計では、中小建設業の営業利益率は平均2〜3%。資材が10%上がっただけで利益が吹き飛ぶ構造だ。25%の上昇となれば、赤字受注か、受注辞退かの二択を迫られる。
公共工事は設計労務単価の引き上げや資材スライド条項で一定の対応がなされるが、民間工事は違う。「契約時の金額でやってくれ」が基本だ。着工から竣工まで半年〜1年かかる間に資材が急騰すれば、そのまま持ち出しになる。
広島では今、2025年のG7サミット後のインフラ整備需要や、老朽化した公共施設の更新工事が続いている。仕事はある。だが、仕事があっても利益が出ない。「忙しいのに倒産する」という最悪のパターンが現実になっている。
—
三つの打撃は「別々の問題」ではない
ここまで読んで気づいた人もいるだろう。電気代、オイル、鉄鋼——この三つは全部、中東の原油・ガスという一本の線でつながっている。
中国電力の燃料費が上がるのも、整備工場のオイルが高騰するのも、建設現場の鉄鋼が跳ね上がるのも、根っこは同じだ。ホルムズ海峡という直径50kmの海峡に、広島の中小企業の命運が握られている。
これは広島だけの問題ではない。だが、広島には広島特有の脆弱さがある。
まず、製造業比率が高い。自動車、造船、機械——いずれもエネルギー多消費型だ。次に、中国電力の火力依存度が高い。島根原発2号機の再稼働が進んでいるとはいえ、電源構成の転換には時間がかかる。そして、中小企業比率が99%を超える。価格交渉力が弱く、コスト上昇を吸収する体力がない。
—
で、中小企業はどうすればいいのか
「中東情勢が落ち着くのを待つ」は戦略ではない。待っている間に資金が尽きる。
現場レベルで今すぐ手を打てることを三つ挙げる。
1. エネルギーコストの可視化と削減
電気代が月いくらで、どの設備が何kWh使っているか。これを把握していない中小企業は驚くほど多い。電力のデマンド監視やLED化、空調の運転最適化だけで10〜15%の削減が可能なケースは珍しくない。月80万円の電気代なら、月8〜12万円、年間100万円以上の削減だ。投資回収も1〜2年で済む。
2. 調達の分散と在庫戦略の見直し
オイルや資材の調達先を1社に依存していないか。中東リスクが高まっている今、複数の仕入れルートを確保しておくことは保険になる。また、「ジャストインタイムで在庫を持たない」が正解だった時代は終わりつつある。価格が安定している今のうちに、2〜3ヶ月分の在庫を積んでおく判断も必要だ。
3. 価格転嫁の交渉を「数字」でやる
「原材料が上がったので値上げさせてください」では通らない。「鉄鋼がトン単価で3万円上がり、この工事では◯トン使うので、◯◯万円のコスト増です」と、明細を出す。公正取引委員会も価格転嫁の推進を強化しており、下請法の運用も厳格化されている。交渉の武器は「具体的な数字」だ。
—
本当に怖いのは「慣れ」だ
電気代が少し上がる。オイルが少し高くなる。資材が少し値上がりする。「少し」が三方向から同時に来ると、中小企業の体力は急速に削られる。だが、毎月少しずつ削られていくと、人は危機感を失う。
茹でガエルになってはいけない。
中東リスクは、広島の中小企業にとって「遠い国の話」ではない。今月の電気代、今週の仕入れ値、今日の見積もりに直結している。まずは自社のコスト構造を数字で把握すること。そこからしか、打ち手は見えてこない。
—
