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2026.08.21

鉄構会社がレモン飲料を売り、就労支援がお菓子を作る——広島の中小企業「本業の隣」で稼ぐ逆転の型

鉄構会社がレモンを売る。就労支援がお菓子を作る。なぜ「本業の隣」なのか

鉄骨を作っていた会社が、レモン飲料を売り始めた。障害者就労支援をやっていたグループが、菓子の常設店舗を構えた。

一見すると「迷走」に見えるかもしれない。だが、両者に共通するのは「すでに持っている資産を、別の市場に接続した」という構造だ。遊休地、設備、人材——本業で余っているリソースを、隣の領域に再配置する。初期投資は最小限。失敗しても本業は傷つかない。

この「本業の隣」で稼ぐ型は、資金力に乏しい地方中小企業にとって、最もリスクの低い新規事業の立ち上げ方かもしれない。広島で実際に動き出した2社の事例を、数字とともに見ていく。

三和鉄構建設——遊休地1,000本のレモンが「第二の売上」になるまで

広島県尾道市に拠点を置く三和鉄構建設は、橋梁や鉄骨構造物の設計・製作を手がける会社だ。公共工事の波に左右される典型的な地方の鉄構業者。受注が途切れれば、職人も設備も遊ぶ。

そこで目をつけたのが、自社が保有していた遊休地だった。

尾道市は瀬戸内の温暖な気候に恵まれ、レモンの生産量は日本一を誇る広島県の中でも有数の産地だ。三和鉄構建設は、この遊休地に約1,000本のレモンの木を植え、自社農園を立ち上げた。年間収穫量は約5トン。ここで採れたレモンを使い、冷凍レモネードとして商品化した。

注目すべきはコスト構造だ。

つまり、新たに大きな設備投資をしていない。販売価格は1本500円。初年度の販売目標は1,000本で売上50万円。数字だけ見れば小さい。鉄構事業の売上と比べれば誤差の範囲だろう。

だが、この事業の本質は「50万円の売上」ではない。

遊休地の維持コストを、収益に転換したことにある。使っていない土地は、持っているだけで固定資産税がかかる。草刈りや管理の手間もかかる。年間数十万円のコストが、収益を生む資産に変わった。差し引きで考えれば、実質的な収益インパクトは売上の数字以上だ。

さらに、尾道という立地が効いている。年間約670万人(2023年、尾道市発表)の観光客が訪れるこの街で、「鉄構会社が作ったレモネード」という意外性は、それ自体が話題になる。観光土産としての販路拡大、ふるさと納税の返礼品登録、ECサイトでの全国販売——横展開の余地は大きい。

三和鉄構建設は今後、レモンを使った新商品(レモンケーキ、レモン調味料など)の開発も計画しているという。1,000本のレモンの木が年間5トンを生む。原料は自前。加工を外注すれば、商品ラインナップは増やし放題だ。

ポイントは、本業を捨てていないこと。鉄構の仕事が入れば鉄構をやる。空いた時間と空いた土地で、レモンを育てる。本業の繁閑の波を、別の事業で吸収する構造ができている。

マリモグループ——就労支援×菓子製造で「工賃」の常識を壊す

広島市に本社を置くマリモグループは、不動産開発を中核とする企業グループだが、近年は障害者就労支援事業にも力を入れている。そのマリモグループが、就労支援事業所で製造したお菓子を販売する常設店舗をオープンした。

この取り組みの背景にある数字を見てほしい。

全国の就労継続支援B型事業所における平均工賃は、月額約1万7,000円(2022年度、厚生労働省調べ)。時給に換算すれば233円程度。最低賃金の4分の1以下だ。

なぜこんなに低いのか。理由は単純で、「売れる商品」を作れていない事業所が多いからだ。内職的な軽作業や、品質にばらつきのある手工芸品では、市場で価格競争力を持てない。結果として工賃は上がらず、「支援」の域を出ない。

マリモグループのアプローチは、ここを正面から突破しようとしている。

初年度の売上目標は150万円。年間30人体制で割れば、1人あたり5万円の売上貢献。もちろん原材料費や店舗運営費を差し引く必要があるが、従来のB型事業所の工賃水準を考えれば、利用者への還元を大きく引き上げる可能性がある。

ここで重要なのは、マリモグループが不動産開発というコア事業を持っていることだ。店舗物件の確保、内装の知見、テナント運営のノウハウ——すべて本業の延長線上にある。菓子製造という「異業種」に見えて、実は不動産×就労支援の交差点に位置する事業なのだ。

「福祉だから品質は二の次」という甘えを捨て、市場で勝負できる商品を作る。その結果として工賃が上がり、利用者の自立につながる。社会貢献と収益が両立する構造を、最初から設計している点が鋭い。

共通する「逆転の型」——なぜ中小企業にこそ有利なのか

2社の事例を並べると、共通する構造が浮かび上がる。

三和鉄構建設 マリモグループ
本業 鉄構造物の設計・製作 不動産開発
新規事業 レモン冷凍飲料 菓子製造・販売
活用した遊休資産 自社遊休地 店舗運営ノウハウ・物件
活用した人材 既存社員の空き時間 就労支援利用者
初期投資 最小限(加工は外注) 最小限(本業の知見を転用)
初年度売上目標 50万円 150万円

共通点は3つ。

1. 「持っているのに使っていないもの」を棚卸しした
遊休地、空き時間、既存のノウハウ。どの中小企業にも「使い切れていない資産」は眠っている。それを別の市場に接続するだけで、新しい収益源になる。

2. 初期投資を極限まで抑えた
大企業のように数千万円の設備投資をして新規事業に参入するのではなく、あるものを使い、足りないものは外注する。50万円の売上目標でいい。まず始めて、回してみて、手応えがあれば拡大する。この「小さく始める」感覚は、中小企業の方がむしろ得意だ。

3. 本業を毀損しない設計になっている
新規事業が失敗しても、本業には影響しない。鉄構の仕事が忙しくなればレモンは後回しにできるし、菓子の売上が伸びなくても不動産事業は揺るがない。これは「副業」ではなく、本業のバッファを収益化するという発想だ。

「で、うちの会社でもできるのか?」

ここまで読んで、「面白い事例だけど、うちには関係ない」と思った経営者がいるかもしれない。

だが、考えてみてほしい。

三和鉄構建設の売上目標は50万円だ。50万円なら、失敗しても致命傷にはならない。マリモグループの150万円も同様。大きな賭けではなく、「試してみる」規模から始めている

AIやデジタルツールの普及で、商品企画、デザイン、EC構築、SNSマーケティングのコストは劇的に下がっている。5年前なら外注で300万円かかったECサイト構築が、今なら月額数千円のサービスで立ち上がる。商品パッケージのデザインも、AIツールを使えば数万円で形になる。

「本業の隣」で稼ぐハードルは、かつてないほど低くなっている。

問いを残す

最後に、ひとつだけ問いを立てておきたい。

三和鉄構建設のレモン事業は、初年度50万円。これを「たった50万円」と見るか、「遊休地がゼロコストで50万円を生んだ」と見るか。

その見方の違いが、次の一手を打てるかどうかを分ける。

広島の中小企業2社が示したのは、派手な成功物語ではない。「持っているものを、違う角度で使ってみた」という、極めて地味で、極めて再現性の高い型だ。

地方の中小企業に必要なのは、大きな投資ではない。自社の資産を棚卸しする目と、小さく始める胆力だ。