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2026.04.10

路線バス4割減、みどりの窓口閉鎖——「移動できない街」で中小企業はどう人を採るか

路線バス4割減、みどりの窓口閉鎖——「移動できない街」で中小企業はどう人を採るか

結論から言う。公共交通の縮退は、地方の中小企業にとって「採用コストの爆上がり」と同義だ。

山口県の路線バスは、この10年で約4割が消えた。JR西日本は2025年度中にみどりの窓口をさらに削減し、呉駅でも閉鎖が決まった。鉄道もバスも「あって当たり前」だった時代は終わりつつある。問題は、この変化が単なる「不便」にとどまらないことだ。通勤手段がなくなれば、求人を出しても人が来ない。顧客が来店できなければ、売上が落ちる。公共交通の消失は、中小企業の経営そのものを揺さぶっている。

数字で見る「移動できない街」の現実

山口県内の路線バスの年間走行キロ数は、2013年度の約2,800万キロから2023年度には約1,700万キロへ、実に40%近く減少した。運転手不足と利用者減の悪循環が止まらない。バス会社の経営は補助金頼みで、赤字路線の廃止は毎年のように発表される。

JR西日本のみどりの窓口も、2020年時点の約340駅から2025年度末には約100駅体制へと大幅に縮小される方針だ。呉駅の閉鎖は象徴的だ。人口約21万人の呉市の中心駅で、窓口がなくなる。高齢者がスマホで切符を買えるのか。外国人観光客は? 「デジタルで代替できる」という本社の論理と、現場の実態には大きな乖離がある。

この影響を最も強く受けるのは誰か。車を持たない高齢者、学生、そして外国人労働者だ。そして彼らこそ、地方の中小企業が採用したい——あるいは顧客として迎えたい——層と重なる。

「通勤できない」が採用の最大障壁になる

広島・山口エリアの中小製造業の経営者に話を聞くと、異口同音にこう言う。「時給を上げても人が来ない。理由を聞くと『通えない』と言われる」。

たとえば、山口県周南市のある金属加工会社。最寄りのバス停から工場まで徒歩30分。朝の始業に間に合うバスは1本しかなく、それも2024年春に廃止された。ハローワークに求人を出しても、応募ゼロが3カ月続いた。時給は1,100円から1,300円に上げたが、変わらなかった。結局、社長が自家用車で従業員を送迎する「自前タクシー」を始めて、ようやく2名の採用に成功した。

この話は特殊な例ではない。中国地方の中小企業の約3割が「通勤手段の確保」を採用上の課題として挙げているという調査もある。大企業なら社員寮や通勤バスを用意できる。だが従業員20人の町工場にそんな余裕はない。公共交通の縮退は、中小企業と大企業の採用格差をさらに広げている。

送迎コストを「見える化」する

では、中小企業が自前で送迎を始めたら、いくらかかるのか。ざっと計算してみよう。

年間で約100〜200万円。従業員5人を送迎するとして、1人あたり年間20〜40万円のコストだ。月額にすると1.7〜3.3万円。これを「高い」と見るか「採用できないよりマシ」と見るかで、経営判断が分かれる。

実際、このコストを「福利厚生」として求人票に明記する企業が出てきている。「送迎あり」の4文字が、時給100円アップより効果があるケースもあるという。面白い逆転だ。

ライドシェアとAI配車は救世主になるか

2024年4月に解禁された日本版ライドシェア(自家用車活用事業)は、地方の移動問題の切り札として期待されている。だが現時点では、対象エリアはタクシー不足が深刻な地域に限定され、運用時間帯にも制約がある。通勤ラッシュ時に使えるかどうかは、地域ごとの運用次第だ。

より現実的なのは、複数の中小企業が共同で送迎バスを運行するモデルだろう。工業団地内の5〜10社が月1〜2万円ずつ出し合えば、マイクロバス1台を回せる。AI配車アプリで乗降ポイントと時間を最適化すれば、ルートの無駄も減らせる。

すでに広島県東広島市の一部工業団地では、企業組合が共同送迎の実証実験を検討しているという話がある。自治体の補助金と組み合わせれば、1社あたりの負担は月1万円以下に抑えられる可能性もある。

ポイントは、「公共交通の代替」を行政だけに求めないことだ。行政の予算も人も限られている。中小企業が自ら動き、共同で移動インフラを作る。その仕組みづくりにこそ、商工会議所や自治体が知恵を出すべきだ。

リモートワークという「もう一つの解」

製造業や介護・飲食業では難しいが、事務職や営業職の一部はリモートワークで対応できる。実際、山口県内のある会計事務所は、2023年からフルリモート勤務を導入し、県外からの応募が3倍に増えた。通勤が不要になれば、公共交通の有無は関係なくなる。

中小企業にとってリモートワーク導入のハードルは、ITインフラよりも「マネジメントの変革」にある。目の前にいない社員をどう管理するか。成果をどう評価するか。ここにこそ、AIツールの活用余地がある。タスク管理、日報の自動要約、チャットボットによる社内問い合わせ対応——月額数千円のSaaSで、かなりのことができる時代だ。

「移動できない街」で生き残るために

公共交通の縮退は止まらない。人口が減り、運転手が足りず、赤字路線は消える。これは構造的な問題であり、短期的に解決する見込みはない。

だからこそ、中小企業は「移動を前提としない経営」と「移動を自前で確保する経営」の両方を考える必要がある。前者はリモートワークやオンライン営業。後者は共同送迎やライドシェアの活用。どちらか一方ではなく、業種や職種に応じて使い分ける。

一つだけ確かなことがある。「バスが来ないから人が採れない」と嘆いているだけでは、何も変わらない。バスが来ないなら、自分たちで迎えに行く。その覚悟と仕組みを持った中小企業だけが、「移動できない街」で生き残る。

問いかけたい。あなたの会社は、従業員の「通勤」にいくらコストをかけているか。そのコストを「見える化」したことがあるか。もしなければ、今日やるべきだ。それが、採用戦略の第一歩になる。