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2026.09.15

県立病院43億円赤字、無医地区53カ所、100歳3000人超——広島の医療は「詰んでいる」のか?

3つの数字が突きつける現実

結論から言う。広島県の医療は、需要と供給の両方から壊れ始めている。

患者は増え続ける。だが、それを支える病院は赤字で、そもそも医者がいない地域が53カ所もある。需要が伸びているのに供給側が崩れている。普通のビジネスなら「伸びている市場」は魅力的だが、医療は違う。需要が伸びるほど、現場が追い詰められる。この構造をまず直視する必要がある。

43億円の赤字——「発足初年度」という重さ

広島県立病院機構は2023年度に地方独立行政法人として発足した。初年度の決算が43億円の赤字。ここで注目すべきは「初年度」という点だ。

独法化の目的は経営の自由度を高め、効率化を進めることにあった。民間の経営手法を取り入れ、柔軟な人材確保や収益改善を図る——それが建前だ。にもかかわらず、スタートからいきなり43億円の穴が開いた。

なぜか。背景には複数の構造的要因がある。

第一に、医療材料費・光熱費の高騰。 コロナ禍以降、医療用品の価格は跳ね上がり、エネルギーコストも上昇した。病院は24時間365日稼働する「工場」だ。電気代だけで億単位のインパクトがある。

第二に、診療報酬の構造的な問題。 診療報酬は国が決める公定価格であり、コストが上がっても自動的に値上げできない。民間企業なら値上げで対応できるが、病院にはその選択肢がない。売上の天井が決まっている中で、コストだけが上がる。これは経営努力だけではどうにもならない。

第三に、人件費の増大。 看護師・医師の確保競争が激化し、給与水準を上げなければ人が来ない。特に地方の公立病院は、都市部の民間病院と人材の奪い合いになる。広島県の場合、広島市内と県北部・島しょ部では人材獲得の難易度がまるで違う。

43億円という数字は、単年度の経営ミスではない。医療という事業そのものが「やればやるほど赤字になる」構造に陥っていることの証左だ。

問いかけたい。県立病院が「採算が取れないからやめます」と言ったら、誰がその患者を診るのか?

無医地区53カ所——「ワースト2位」の意味

広島県の無医地区は53カ所。これは北海道に次いで全国で2番目に多い。

北海道は面積が広大だから無医地区が多いのは直感的に理解できる。だが広島県は面積で全国11位、人口で12位の「中規模県」だ。にもかかわらず無医地区が53カ所もある。これは広島県の地理的特性——中山間地域と島しょ部の多さ——に起因する。

県北部の庄原市や安芸太田町、島しょ部の大崎上島や豊島。こうした地域では、最寄りの診療所まで車で30分以上、フェリーの時間次第では半日がかりという住民がいる。

無医地区の住民にとって、「病院の赤字」は遠い話ではない。赤字を理由に診療所が閉じれば、次に近い医療機関はさらに遠くなる。そして高齢者ほど移動が困難だ。

53カ所の無医地区に住む人々の平均年齢のデータは公開されていないが、中山間地域・島しょ部の高齢化率が40〜50%を超えている地域は珍しくない。つまり、最も医療を必要とする人々が、最も医療から遠い場所にいる。

この矛盾を放置したまま「地方創生」を語るのは、率直に言って欺瞞だ。

100歳3,000人超——「長寿」の裏側にあるコスト

広島県の100歳以上人口が3,000人を超えた。メディアはこれを「長寿の証」として好意的に報じる。だが、ここで考えるべきは「長寿のコスト」だ。

100歳以上の高齢者の多くは、何らかの医療・介護サービスを日常的に利用している。一人当たりの年間医療費は、75歳以上で平均約93万円(厚生労働省「国民医療費」より)。100歳以上ともなれば、入院や施設入所の割合が高く、実際のコストはさらに膨らむ。

3,000人×年間100万円と仮定しても、それだけで年間30億円。県立病院の赤字43億円と並べると、この数字の重さが見えてくる。

もちろん、長寿そのものを否定する話ではない。問題は、増え続ける医療需要を、誰がどうやって支えるのかという仕組みの話だ。

広島県の高齢化率は約31%(2024年時点)。全国平均の約29%を上回る。今後、団塊の世代が後期高齢者に完全移行する2025年以降、医療・介護の需要はさらに急増する。いわゆる「2025年問題」は、広島県にとって全国平均以上にインパクトが大きい。

看護学校の運営主体変更——人材供給パイプラインの細り

岩国看護学校が2027年春に運営主体を広島YMCA学園からYIC学院に変更する。一見すると単なる学校運営の話だが、その背景には深刻な問題がある。

学生が集まらない。

看護師を目指す若者が減っている。理由は明白だ。夜勤あり、体力勝負、精神的負荷が高い——それでいて給与は他の専門職と比べて突出して高いわけではない。若者にとって「割に合わない」と映る職業になりつつある。

看護師の有効求人倍率は全国で2倍を超える。つまり、求人が求職の2倍以上ある。広島県内でも状況は同じだ。病院は看護師を求めているが、なり手が足りない。

看護学校の運営が立ち行かなくなれば、地域の看護師供給パイプラインが細る。パイプラインが細れば、病院は人手不足でさらに経営が悪化する。経営が悪化すれば待遇改善もできず、ますます人が来なくなる。典型的な負のスパイラルだ。

「で、どうすればいいのか」——3つの現実的な論点

「地域全体で協力しましょう」では何も解決しない。もう少し踏み込んで、具体的な論点を整理する。

1. オンライン診療の本格導入——53カ所の無医地区に「医師を届ける」

無医地区53カ所に物理的に医師を配置するのは、現実的に不可能だ。人口数十人〜数百人の集落に常勤医を置く採算は取れない。

だが、オンライン診療なら話が変わる。タブレット1台と通信環境があれば、広島市内の医師が県北部の患者を診ることができる。初期投資はタブレットと通信機器で数万円。常勤医を1人雇用すれば年間2,000万円以上かかることを考えれば、コストは桁違いに安い。

2024年の診療報酬改定でオンライン診療の評価は拡充された。制度的な追い風はある。問題は、高齢者がデジタル機器を使えるかどうかだ。ここに「地域の支援者」——たとえば公民館職員や民生委員——がサポートに入る仕組みを作れるかが鍵になる。

中小企業のAI導入を支援してきた立場から言えば、技術のハードルは年々下がっている。問題はいつも「技術」ではなく「運用」だ。誰が現場で回すのか。その設計ができるかどうかで成否が分かれる。

2. 県立病院の機能再編——「全部やる」をやめる

43億円の赤字を経営努力だけで埋めるのは無理だ。診療報酬という天井がある以上、売上を劇的に伸ばすことはできない。

ならば、やることを絞るしかない。すべての診療科を維持するのではなく、地域の民間病院と機能を分担する。県立病院は高度急性期と救急に集中し、慢性期やリハビリは民間に任せる。こうした機能再編は全国で進んでいるが、広島県はまだ道半ばだ。

2024年度中に策定される予定の中期計画で、どこまで踏み込んだ再編案が出てくるか。ここが最初の分岐点になる。

3. 「医療」と「介護」と「生活支援」の境界を溶かす

100歳以上が3,000人いる社会では、「病気を治す」医療だけでは対応しきれない。必要なのは、日常の見守り、服薬管理、栄養管理、移動支援——医療と介護と生活支援が一体化したサービスだ。

ここにこそ、中小企業の出番がある。大手医療法人にはできない、地域密着型の小回りの利くサービス。たとえば、地元のタクシー会社が通院送迎と見守りを組み合わせる。地元の弁当屋が配食と安否確認を兼ねる。すでに全国にはこうした事例がある。

技術的には、IoTセンサーによる見守りシステムは月額数千円で導入できる時代だ。バイタルデータを自動で記録し、異常があれば医療機関に通知する仕組みは、もはやSFではない。

この先、何を見るべきか

広島県の医療問題は、広島だけの問題ではない。高齢化、人口減少、医療費の膨張——日本全体が直面する構造的課題の縮図だ。

だが、だからこそ広島で先に解決策が生まれれば、それは全国のモデルになり得る。瀬戸内の島しょ部でオンライン診療が定着すれば、全国の離島や中山間地域に横展開できる。県立病院の機能再編が成功すれば、他県の公立病院改革の参考になる。

注視すべきポイントは3つ。

  1. 県立病院機構の2024年度決算と中期計画——赤字が拡大するか、縮小に転じるか。具体的な再編案が出るか。
  2. 無医地区へのオンライン診療導入の進捗——制度はある。あとは現場で回せるかどうか。
  3. 看護師・医療人材の確保策——学校の運営主体変更は対症療法に過ぎない。根本的な待遇改善と働き方改革に踏み込めるか。

43億円の赤字、53カ所の無医地区、3,000人の100歳以上。この3つの数字は、「このままでは持たない」という警告だ。

問題を先送りにしている余裕は、もうない。