トップ不在のまま、数百億円規模の意思決定が進んでいる
結論から言う。
広島市で今、異常なことが起きている。市長が公務を欠席し続ける中で、50億円の3セク追加投資、事業費8割増のJR高架化、原爆資料館の拡張と値上げ——数百億円規模の意思決定が、次々と「誰が最終責任を取るのか分からない状態」で動いている。
民間企業で考えてみてほしい。社長が体調不良で出社しない。でも取締役会は開かれ、数十億円の投資案件が決裁されていく。株主が黙っているだろうか。銀行が黙っているだろうか。広島市で起きているのは、まさにそういう構造だ。
3セクへの50億円追加——108億円の貸付残高がある会社に、さらに貸すのか
まず、最も危険な案件から見る。
広島市が出資する第三セクターに対して、50億円の追加投資が決定された。この3セクは、すでに108億円の貸付残高を抱えている。つまり、100億円以上を貸して成果が出ていない相手に、さらに50億円を積むという判断だ。
中小企業の経営者なら、この数字を見た瞬間に「損切り」の二文字が頭に浮かぶ。108億円貸して回収できていないなら、まず問うべきは「なぜ返せないのか」「事業モデルは成立しているのか」だ。その問いを飛ばして追加投資を決めるのは、民間では「追い貸し」と呼ばれる。銀行がやれば金融庁に怒られる行為だ。
しかも、この50億円の原資は市民の税金だ。広島市の一般会計予算は約6,800億円。50億円は全体の0.7%に過ぎないと思うかもしれないが、広島市の中小企業支援予算や商工費と比べれば、その重みが分かる。地場の中小企業が銀行に500万円の融資を頼むのにどれだけ苦労しているか。その1,000倍の金額が、不振の3セクに追加で流れていく。
問いたいのはシンプルだ。この50億円を投じて、何がどう変わるのか。KPIは何か。撤退基準はあるのか。それが市民に説明されていない。
JR高架化、完了2048年——事業費は8割増、誰が責任を取るのか
次に、JR高架化工事の問題だ。
完了時期が2048年度に延期された。2048年。今から23年後だ。広島市の人口は現在約118万人だが、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2045年には約100万人を割り込む可能性がある。人口が2割近く減る街で、23年かけて高架化工事を完了させる。その間、工事区間の商店街や沿線の中小企業はどうなるのか。
さらに深刻なのは事業費だ。全体事業費が約8割増になる見込みだという。仮に当初計画が500億円なら、900億円に膨らむ計算だ。この400億円の増加分は、資材高騰や工期延長によるものだろうが、問題はそこではない。
当初の見積もりが甘かったのか、途中で仕様が変わったのか、それとも管理が杜撰だったのか。原因の説明がないまま「8割増です」と言われて、「はいそうですか」と受け入れる市民がいるだろうか。
民間の建設プロジェクトで事業費が8割増になれば、プロジェクトマネージャーは更迭される。発注者は契約を見直す。少なくとも、原因究明と再発防止策が求められる。公共事業だからといって、その原則が免除されるわけではない。
地方の中小建設業者にとっても、この工期延長は他人事ではない。23年にわたる大型公共工事は、地元の建設業界の人材配置や経営計画に直接影響する。「いつ終わるか分からない工事」に人を張り続けるのは、中小企業にとって大きなリスクだ。
原爆資料館——拡張と値上げの同時進行は正しいのか
原爆資料館の話も整理しておく。
来館者数の増加による混雑対策として、広島国際会議場への拡張が検討されている。同時に、入館料を現行の300円から2030年までに500円に引き上げる案が出ている。
数字で見る。2023年の来館者数は過去最高を記録し、約198万人。入館料300円で単純計算すると約5.9億円の収入だ。500円に上げれば、同じ来館者数なら約9.9億円。差額は約4億円。拡張工事の原資に充てるという発想だろう。
だが、ここにも問いがある。
値上げによって来館者数が減らないか。特に、修学旅行や地元の学生への影響はどうか。原爆資料館は単なる観光施設ではない。平和教育の拠点だ。「稼ぐ施設」にすることと「伝える施設」であり続けることは、時に矛盾する。その矛盾をどう整理するのか。
また、拡張先として広島国際会議場を使うなら、現在の会議場利用者——学会やビジネスイベントの主催者——はどこに行くのか。MICE誘致を掲げる広島市が、会議場を資料館に転用するのは、政策として整合性があるのか。
これらの問いに答えるべき人が、今、公務を欠席している。
本質的な問題——「決める人がいない」ことではなく「決め方が見えない」こと
松井市長の体調不良そのものを責めるつもりはない。人間だから体調を崩すことはある。問題は、トップが不在のときに意思決定プロセスがどう機能するか、その設計ができていないことだ。
民間企業なら、社長不在時の権限委譲ルールがある。誰が代行し、どこまでの金額を決裁でき、どの案件は社長復帰まで保留するか。それが明文化されている。
広島市にそれがないとは言わない。副市長がいる。部局長がいる。しかし、50億円の追加投資や事業費8割増の承認が「通常の決裁フロー」で処理されていいのか。市民への説明責任は誰が負うのか。その部分が、外から見てまったく分からない。
透明性がないところに、信頼は生まれない。
地方の中小企業にとって、これは何を意味するか
最後に、この問題を「広島市政の話」で終わらせたくない。
地方の中小企業経営者にとって、自治体の財政運営は経営環境そのものだ。3セクへの50億円追加投資は、その分だけ他の予算——たとえば中小企業向けのDX支援や販路開拓支援——が圧迫される可能性がある。JR高架化の事業費膨張は、将来の市税負担増につながりかねない。
広島市の法人市民税を払っている中小企業の経営者は、この状況をどう見ているだろうか。自分たちが毎月の資金繰りに苦労しながら納めた税金が、成果の見えない3セクに追加投入される。そのことに対して、説明を求める権利がある。
「このままでいいのか」——その問いを、市民も経済界も、もっと声に出すべきだ。
松井市長には、体調が許す限り早期に公の場で説明してほしい。そして、市の幹部には、トップ不在であっても意思決定の根拠と責任の所在を明確にしてほしい。
数百億円の投資判断が、「なんとなく」進んでいく。それが一番怖い。地方都市の未来を左右する金額が、誰の責任で、どんな根拠で決まったのか。それが見えない限り、広島市の信頼回復は遠い。
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