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2026.10.02

府中町ネーミングライツ売れ残り、尾道36億円不足——地方自治体の「稼ぐ力」は、もう限界なのか?

年間数十万円のネーミングライツすら売れない現実

結論から言う。地方自治体の「稼ぐ力」は、構造的に限界を迎えている。

広島県府中町がネーミングライツ(命名権)の売却を断念した。公共施設に企業名を冠してもらい、年間数十万円程度の収益を得る——たったそれだけのことが、買い手がつかずに終わった。府中町は今後、クラウドファンディングに切り替えると発表している。

一方、尾道市では今後5年間で約36億円の財源不足が明らかになった。2026年度に投資的経費がピークを迎えるタイミングで、だ。

ネーミングライツで年間数十万円すら稼げない自治体と、5年で36億円足りない自治体。この2つのニュースを並べると、地方自治体の「稼ぐ力」の現在地がはっきり見える。

府中町の誤算——「売る」以前の問題

府中町のネーミングライツが売れなかった理由は単純だ。買う側にメリットが薄い。

人口約5万人の府中町で、公共施設に企業名を冠したところで、広告効果はどれほどか。仮に年間50万円の命名権料だとしても、地元企業にとっては「寄付」に近い感覚になる。費用対効果を冷静に計算すれば、地元紙に広告を出した方がまだリーチがある、という判断は合理的だ。

そもそもネーミングライツは、大都市圏のスタジアムや大規模施設で成立するモデルだ。年間数万人〜数十万人が利用する施設だからこそ、数千万円〜数億円の命名権料が成り立つ。横浜の「日産スタジアム」は年間約4.5億円。マツダスタジアム(現MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島)でも年間数千万円規模と言われる。

人口5万人の町が同じ仕組みを導入して、うまくいくはずがない。大都市の成功事例をそのまま持ってくる発想自体が、地方自治体の「稼ぐ力」の限界を象徴している。

では、切り替え先のクラウドファンディングはどうか。正直、これも厳しい。クラウドファンディングは「共感」で資金を集める仕組みだが、自治体の日常的な財源確保に「共感」は持続しない。単発のプロジェクト——たとえば「老朽化した図書館を建て替えたい」なら成立するかもしれない。だが、毎年の運営費をクラウドファンディングで賄うのは、構造的に無理がある。

尾道市の36億円——「稼ぐ」では埋まらない穴

尾道市の問題はもっと深刻だ。

5年間で36億円の財源不足。年平均で約7億円足りない計算になる。尾道市の一般会計予算は約500億円規模。そのうち7億円が足りないというのは、割合にすれば1.4%程度だが、投資的経費(道路、橋、公共施設の整備など)に直結する部分だから影響は大きい。

インフラの老朽化は待ってくれない。尾道は坂の町であり、斜面地の生活道路や階段、擁壁の維持管理コストは平地の自治体とは比較にならない。しまなみ海道の観光効果で外から見れば華やかだが、足元のインフラは確実に劣化している。

ここで一つ、ドラフトに事実誤認があったので訂正しておく。「広島平和記念資料館の入館料を200円から500円に値上げ」という記述があったが、平和記念資料館は広島市の施設であり、尾道市とは無関係だ。広島市が検討している値上げの話と、尾道市の財源不足は別の問題である。混同してはいけない。

では、尾道市はどう36億円を埋めるのか。

現実的な選択肢は限られる。歳出の削減(事業の見直し・先送り)、地方債の発行(将来世代へのツケ回し)、国の交付金・補助金の獲得、そして自主財源の強化。このうち「自主財源の強化」が、まさに「稼ぐ力」の話だが、年間7億円を自主財源で新たに生み出すのは、人口12万人規模の自治体には非常にハードルが高い。

尾道市の観光入込客数は年間約670万人(コロナ前の水準)。仮に観光客一人あたり100円の「稼ぎ」を上乗せできたとしても、6.7億円。ほぼ不足額に匹敵するが、観光客から100円多く取る仕組みを作ること自体が容易ではない。宿泊税の導入も議論されているが、尾道の宿泊者数は日帰り客に比べて少なく、税収効果は限定的だろう。

本当の問題——「稼ぐ」の定義がズレている

府中町も尾道市も、根本的な問題は同じだ。自治体が「稼ぐ」とは何か、という定義がズレている。

自治体が直接モノを売ったり、命名権を販売したりして収益を上げる——これは「稼ぐ」の最も表面的な形だ。年間数十万円〜数百万円の話にしかならない。

本来、自治体の「稼ぐ力」とは、地域の民間経済を太くして、税収を増やすことだ。企業が儲かれば法人住民税が増える。住民の所得が上がれば個人住民税が増える。地価が上がれば固定資産税が増える。この循環を作ることが、自治体にとっての「稼ぐ」の本質だ。

ところが多くの自治体は、この本質から目を逸らして、ネーミングライツやふるさと納税やクラウドファンディングといった「小技」に走る。悪いとは言わないが、年間数十万円の命名権料で36億円の穴は埋まらない。桁が3つ違う。

民間が動く方が速い——イズミ「ゆめNEOBANK」の示唆

ここで注目したいのが、広島の流通大手イズミが始めた「ゆめNEOBANK」だ。住信SBIネット銀行と提携し、ゆめタウンのアプリ上でスマホ銀行サービスを提供する。

これは自治体の話ではないが、地方経済にとって重要な動きだ。なぜか。

地方では銀行の支店が減り続けている。広島県内でも、過去10年で地銀の支店数は2割以上減った。特に中山間地域や島嶼部では、最寄りの銀行まで車で30分、という状況が珍しくない。

イズミの「ゆめNEOBANK」は、買い物のついでに金融サービスにアクセスできる導線を作った。ゆめタウンは広島県内に20店舗以上あり、日常的な接点としては銀行支店よりはるかに多い。しかも、スマホ完結だから店舗コストがかからない。

この動きが示しているのは、地方の生活インフラを支える主体が、自治体や金融機関から流通企業にシフトしつつある、という構造変化だ。自治体がネーミングライツで数十万円を稼ごうとしている間に、民間企業は地域の金融インフラそのものを再構築している。スピード感が違う。

中小企業にとって、この流れはチャンスか脅威か

ここからが本題だ。地方の中小企業にとって、自治体の「稼ぐ力」の限界は何を意味するのか。

まず、自治体の財政が厳しくなれば、公共事業は減る。建設業、土木業への発注が細る。補助金も絞られる。これは脅威だ。

だが、逆の見方もできる。自治体ができないことが増えるということは、民間にチャンスが移るということでもある。

例えば、公共施設の管理運営。自治体が直営で維持できなくなれば、指定管理者制度や民間委託が進む。すでに全国で公園、図書館、スポーツ施設の民間運営が増えている。尾道でも、空き家を活用した民間主導のまちづくりが成果を出している。NPO法人尾道空き家再生プロジェクトは、100軒以上の空き家を再生し、移住者やクリエイターを呼び込んだ。自治体の予算ではなく、民間の知恵と少額の投資で動いた事例だ。

もう一つ。自治体の「稼ぐ力」が限界なら、地域の中小企業自身が稼ぐ力を上げるしかない。そこにAIやデジタルツールの出番がある。

以前なら、マーケティング調査に300万円、ウェブサイト制作に200万円、多言語対応に100万円かかっていたものが、今はAIを使えば合計で数万円〜数十万円で済む。この「コストの崩壊」は、大企業より中小企業にとってインパクトが大きい。なぜなら、これまでコストが障壁になって手が出なかった施策に、初めて手が届くからだ。

尾道の小さな旅館が、AIで多言語の予約サイトを作り、海外からの直接予約を取れるようになる。府中町の製造業が、AIで需要予測を行い、在庫コストを3割削減する。こうした一つひとつの積み重ねが、地域の税収を底上げし、結果的に自治体の財政を支える。

結局、どうすればいいのか

自治体に「もっと稼げ」と言っても、構造的に限界がある。人口5万人の町のネーミングライツに数百万円の値がつく世界は来ない。

だからこそ、発想を変えるべきだ。

自治体の仕事は「自分で稼ぐ」ことではなく、「民間が稼げる環境を作る」ことだ。規制の緩和、データの公開、公共施設の民間開放、創業支援。自治体が1円稼ぐより、地元企業が100円稼げる仕組みを作る方が、税収へのリターンは大きい。

中小企業の側も、自治体の補助金や公共事業に依存する体質から脱却する時期に来ている。AIをはじめとするデジタルツールで、自力で市場を開拓し、コストを下げ、利益を出す。その方が、ネーミングライツの売り先を探すより、よほど地域経済に効く。

府中町のネーミングライツが売れなかったことは、小さなニュースに見える。だが、これは地方自治体の「稼ぎ方」が根本から問い直されているサインだ。尾道の36億円不足と合わせて見れば、もう「小技」では乗り切れない段階に入っていることは明らかだろう。

問いはシンプルだ。自治体が稼ぐのか、地域が稼ぐのか。答えは後者しかない。

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