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2026.04.25

広島ファンド5.5億含み損、商品券システム障害、廿日市ふるさと納税2割減——自治体の「お金の使い方」を決算書から問い直す

自治体の財布に穴が開いている

広島県のファンドで5億5900万円の含み損。広島市のプレミアム商品券はシステム不具合で申請が滞る。廿日市市のふるさと納税は前年比約2割減。

この3つのニュース、バラバラに見えるが構造は同じだ。自治体が「増やす」「配る」「集める」という3つのお金の動かし方で、すべてつまずいている。

「自治体の財政なんて自分には関係ない」と思う中小企業経営者は多い。だが、ちょっと待ってほしい。県のファンドが焦げつけば地域振興の予算が削られる。商品券が機能しなければ地元店舗への消費が蒸発する。ふるさと納税が減れば自治体の自主財源が細り、公共サービスや産業支援策が縮む。全部、あなたの売上に跳ね返る話だ。

決算書を読むように、自治体の「お金の使い方」を読む。それが中小企業の経営判断に直結する時代になっている。

「増やす」の失敗——広島県ファンド、5億5900万円の含み損

広島県が運営するファンドに5億5900万円の含み損が発生した。外部監査からは「成果の検証を」と指摘されている。

まず整理しよう。自治体がファンドを持つ目的は、地域のスタートアップや成長企業に投資し、リターンを得ながら地域経済を活性化させることだ。いわば「税金を使って、税金以上のリターンを生む」仕組みである。

だが、5.5億円の含み損とはどういう規模か。広島県の一般会計予算は約1兆円規模だが、自由に使える裁量的経費はそのうちごく一部だ。中小企業向けの産業振興予算が年間数十億円であることを考えれば、5.5億円は「誤差」では済まない。中小企業支援の補助金であれば、1件あたり100万〜500万円の規模感だから、単純計算で100社以上を支援できる金額が宙に浮いていることになる。

ここで問うべきは「なぜ含み損が出たか」ではない。投資にリスクはつきものだ。問題は「含み損が出ている状態で、成果の検証すらされていなかった」という点だ。

民間の中小企業なら、500万円の投資でも毎月キャッシュフローを確認する。回収の見込みが立たなければ損切りも判断する。それが5.5億円規模で「検証を」と外部から言われるまで放置されていた。これは投資の失敗ではなく、ガバナンスの失敗だ。

中小企業経営者がここから読み取るべきことは2つある。

1つ目は、県の財政余力が確実に削られているということ。 含み損が実現損に変われば、その分だけ他の予算が圧縮される。公共事業、産業支援、観光振興——どこかにしわ寄せが来る。特に建設業や観光関連の中小企業は、県発注案件の減少を想定しておくべきだ。

2つ目は、自治体のファンドに「出口戦略」を期待しすぎないこと。 地元スタートアップへの投資を自治体ファンドに頼る構造自体が、そもそも脆い。民間VCが入りにくい地方だからこそ自治体がやる意義はあるが、ガバナンスがこの状態では、投資先の企業も巻き添えを食う。自社の資金調達ルートを自治体頼みにしない設計が必要だ。

「配る」の失敗——プレミアム商品券、システム障害で消費が蒸発

広島市のプレミアム付き商品券で、申請手続きにシステム不具合が発生した。申請が集中し、特にGmailユーザーに確認メールが届かないなどの障害が起きた。

プレミアム商品券の仕組みはシンプルだ。例えば1万円で1万2000円分の商品券が買える。差額の2000円を自治体が負担することで、消費を喚起する。広島市はこれで地域経済を回そうとした。

だが、申請段階でつまずいた。これは単なる「システムトラブル」ではない。「配る」仕組みの設計ミスだ。

考えてみてほしい。プレミアム商品券は、購入のタイミングが消費のタイミングを決める。申請が滞れば、商品券の購入が遅れ、消費も後ろ倒しになる。最悪の場合、「面倒だからもういいや」と離脱する市民も出る。自治体が予算を組んで「配る」と決めたお金が、届くべき人に届かない。これは予算の空振りだ。

地元の小売店や飲食店にとって、プレミアム商品券は「確実に来るはずの売上」だった。それが不具合で蒸発する。特に中小の個人店は、商品券利用を見込んで仕入れを増やしていたケースもある。売上が来なければ、その仕入れコストだけが残る。

ここから中小企業が学ぶべき教訓は明確だ。自治体の施策を「確定した売上」として計算に入れるのは危険だということ。 補助金も商品券も、制度設計や運用のどこかでつまずけば、予定通りには届かない。自社の売上計画において、行政施策に依存する比率が高い企業ほど、こうしたリスクに脆弱になる。

もう一つ。このシステム不具合は、自治体のDXの現在地を如実に示している。Gmailに対応できないメール配信システムとは何か。2025年にもなって、メール到達率の問題でつまずくのは、技術的には初歩的な話だ。おそらく委託先のベンダー選定や仕様策定の段階で、負荷テストやメール配信の技術要件が甘かったのだろう。自治体DXと言いながら、実態はこのレベルだという現実を、我々は直視すべきだ。

「集める」の失敗——廿日市ふるさと納税、カキ不漁で2割減

廿日市市のふるさと納税が前年比約2割減少した。主因は、返礼品の目玉である広島カキの不漁・被害だ。

ふるさと納税の構造を冷静に見よう。寄付者が廿日市市を選ぶ理由の大部分は「返礼品」だ。つまり、ふるさと納税とは実質的に「返礼品EC」である。返礼品の魅力が落ちれば、寄付は他の自治体に流れる。全国の自治体がしのぎを削るレッドオーシャンの中で、主力商品が供給不能になれば売上が落ちるのは当然だ。

ここで注目すべき数字がある。廿日市市のふるさと納税額は近年10億円前後で推移していたとされる。2割減ということは、約2億円が消えた計算だ。2億円の自主財源減は、人口約11万人の自治体にとって軽い数字ではない。住民一人あたりに換算すれば約1,800円。これが公共サービスの質に影響しないと考えるほうが不自然だ。

だが、本質的な問題は別のところにある。単一の特産品に依存するふるさと納税戦略のリスクだ。

カキの不漁は天候や海水温など、自治体がコントロールできない要因で起きる。にもかかわらず、返礼品のポートフォリオがカキに偏っていれば、自然災害一発で収入が吹き飛ぶ。これは中小企業経営でいえば、売上の7割を1社の取引先に依存しているのと同じ構造だ。

廿日市市には宮島という世界遺産がある。けん玉発祥の地でもある。木工や醸造など、まだ返礼品として開発しきれていない地域資源は多い。問題は「カキが減った」ことではなく、「カキが減ったときの代替戦略がなかった」ことだ。

これは地元の中小企業にとってもチャンスになり得る。ふるさと納税の返礼品は、地元企業の商品を全国に届ける強力な販路だ。カキ以外の返礼品を開発・提案できる企業は、自治体にとって今まさに「欲しい存在」のはずだ。自治体の困りごとは、中小企業のビジネスチャンスの裏返しでもある。

で、結局どうすればいいのか

3つの事例に共通するのは、自治体の「お金の動かし方」が構造的にもろいということだ。

これは自治体だけの問題ではない。中小企業経営者が自分の会社に置き換えて考えるべき話だ。

投資の検証を怠っていないか。 設備投資、広告費、人材採用——投じたコストに対するリターンを、どれだけの頻度で検証しているか。5.5億円の含み損を放置した県と、自社のPDCAは本当に違うと言い切れるか。

「届ける仕組み」は機能しているか。 せっかくの商品やサービスも、届ける仕組みが壊れていれば売上にならない。自社のECサイト、予約システム、顧客対応のフロー——ボトルネックはないか。

売上の依存先は分散できているか。 特定の取引先、特定の商品、特定の季節に売上が偏っていないか。廿日市のカキ依存と同じ構造を、自社が抱えていないか。

自治体の決算書は、地域経済の「健康診断書」だ。数字の悪化は、半年後、1年後に自社の経営環境として跳ね返ってくる。

「うちには関係ない」ではなく、「うちに関係ある数字はどれか」。その目線で自治体の財政を見る習慣が、地方の中小企業にとっての最大のリスクヘッジになる。