競合8社が1つの法人をつくる。これは「仲良しごっこ」ではない
広島市内のバス8社が共同で一般社団法人を設立する。
運転手が足りない。路線を維持できない。単独では詰んでいる——。その現実を直視した結果、競合同士が「会社の壁」を越えてリソースを共有する枠組みに踏み出した。
これは広島のバスだけの話ではない。人手不足に苦しむ全国の中小企業にとって、「自社で抱える」から「共有する」への構造転換を考えるヒントが詰まっている。
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なぜ8社が「一緒にやる」しかなかったのか
数字を見れば一目瞭然だ。
国土交通省の統計によると、全国のバス運転手数はこの10年で約1割減少している。広島も例外ではない。市内バス事業者の運転手の平均年齢は50歳を超え、毎年一定数が定年で現場を離れる。一方で、大型二種免許の新規取得者は全国的に減少の一途だ。
各社が個別に求人広告を出し、個別に教育し、個別にシフトを組む。その結果どうなるか。A社で運転手が余っている時間帯に、B社では足りない。でも会社が違うから融通できない。路線が重複しているエリアでは、少ない運転手を奪い合う構図になる。
限られたパイを競合同士で食い合っている。それが現状だ。
共同法人の狙いは、この「個社最適の非効率」を壊すことにある。具体的には以下の3つが柱になる。
- 運転手のシェアリング——繁閑に応じて各社間で運転手を融通する仕組み
- 路線の再編・共同運行——重複路線の整理と、需要に合わせたダイヤ最適化
- 共同での採用・教育——個社バラバラだった採用活動と研修を一本化し、コストを下げる
例えば、8社がそれぞれ年間500万円かけていた採用広告費を共同化すれば、4,000万円の予算で一括運用できる。単純計算でも、媒体への交渉力が上がり、1社あたりの実質コストは下がる。採用ブランディングも「広島のバス業界全体」として打ち出せるほうが、求職者への訴求力は強い。
これは「仲良くしましょう」という話ではない。単独では生き残れないから、共有するしかないという生存戦略だ。
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「共有する」設計思想は交通だけの話ではない
面白いのは、この「組織の壁を越えてリソースを共有する」という動きが、広島で同時多発的に起きていることだ。
広島市消防局は2025年4月、航空救助機動隊を新設した。東消防署の人命救助の専門家や救急救命士ら8人で構成され、ヘリコプターで孤立地域に即応する部隊だ。
広島は2014年の土砂災害、2018年の西日本豪雨と、繰り返し大規模災害に見舞われてきた。2018年の豪雨では県内で100名以上が犠牲になり、道路寸断で地上からのアクセスが断たれた地域が多数あった。「地上が使えないなら空から行く」——その教訓を組織として形にした。
ポイントは、この機動隊が消防の枠を超えて医療機関や自衛隊との連携を前提に設計されていることだ。8人という少数精鋭だからこそ、外部との連携なしには機能しない。自前で全部やろうとしない設計が最初から組み込まれている。
もう一つ。広島商船高専の練習船「広島丸」が、NTTドコモ、ソフトバンク、楽天モバイルと連携し、災害時の通信支援船として活用される枠組みが整った。
通信インフラが途絶えた沿岸部や離島に、船から臨時の通信環境を提供する。練習船の年間運用コストは約1,500万円。これを災害支援にも転用することで、新たに専用船を建造するコスト(数億円規模)をかけずに機能を確保できる。通信各社が改修・運用費を分担することで、高専単独では到底実現できない体制が生まれた。
「持っているけど使い切れていないリソース」×「必要だけど単独では持てない機能」。この掛け算が、組織の壁を越えた瞬間に成立する。
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中小企業にとっての本質——「自前主義」を捨てられるか
バス8社の共同法人、消防の航空機動隊、商船高専の通信支援船。これらに共通する構造を一言で言えば、「自前主義の放棄」だ。
地方の中小企業の現場を見ていると、この「自前主義」がいかに根深いかを痛感する。
- 自社で採用サイトをつくり、自社で応募を待つ
- 自社で経理を抱え、自社でシステムを運用する
- 自社のノウハウは自社だけのもの
気持ちはわかる。だが、人口が減り、採用が難しくなり、1社でできることの限界が明らかになった今、この発想を続けるコストは年々上がっている。
逆に言えば、「共有する」と決めた瞬間にコストが劇的に下がる領域がある。
例えば、同じ商圏の中小企業5社が共同で経理のバックオフィスを持てば、1社あたりの月額コストは単独運用の3分の1以下になるケースがある。AIを使った請求書処理や仕訳の自動化も、5社分まとめて導入すれば1社あたりの導入コストは大幅に下がる。
採用も同じだ。地方の中小企業が1社で「うちに来てください」と叫んでも届かない。だが、「この地域の製造業5社がまとめて採用します。入社後にあなたに合う会社を選べます」と言えば、求職者にとってのリスクは下がり、応募のハードルも下がる。
広島のバス8社がやろうとしていることは、まさにこれだ。
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問いかけ——あなたの会社は、何を「共有」できるか
もちろん、共同化にはリスクもある。意思決定のスピードが落ちる。責任の所在が曖昧になる。各社の利害が衝突する。バス8社の共同法人も、路線再編で「うちの路線が減らされる」という摩擦は必ず起きるだろう。
だが、問うべきは「摩擦があるからやらない」ではなく、「やらなかった場合に何が起きるか」だ。
運転手不足が解消しなければ、路線は減る。路線が減れば、沿線の住民は移動手段を失う。移動手段を失えば、その地域の商業も医療アクセスも衰退する。最終的にバス会社自体が成り立たなくなる。
「現状維持」が最もリスクの高い選択肢になっている。
これはバス業界だけの話ではない。地方の中小企業すべてに当てはまる構造だ。
広島のバス8社は、その構造に正面から向き合った。まだ実験段階であり、成果が出るかはこれからだ。だが、「競合同士が共有する」という選択肢を現実のものにしたこと自体に意味がある。
あなたの会社は、何を自前で抱え続けていて、何を共有できるだろうか。
その問いに向き合うことが、人口減少時代を生き残る中小企業の第一歩になる。広島のバス8社の実験を、対岸の火事ではなく、自社の経営課題として見てほしい。
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