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2026.09.25

広島への修学旅行、関東からなぜ来ない?——「平和学習のノウハウ不足」という構造問題と、中小企業が埋めるべき空白

広島への修学旅行、関東からなぜ来ない?

結論から言う。関東の中学校で、修学旅行先に広島を選ぶ学校はわずか約5%だ。行き先の大半は京都・奈良。一方、関西の中学校では広島・長崎が定番で、西日本全体では修学旅行先として広島は圧倒的な存在感を持つ。

広島平和記念資料館の入館者数は2023年度に約198万人を記録し、過去最多を更新した。G7広島サミット効果もあり、外国人観光客も急増している。にもかかわらず、修学旅行で広島を訪れる子どもの数は約30万9000人(2023年度・広島平和文化センター調べ)。全国の小中高校生約1,200万人のうち、ざっくり40人に1人。「3人に1人」ではない。在学中に一度でも訪れる累計で見ればもう少し増えるが、単年度ベースではこの数字だ。

そして、その大半は西日本の学校が占めている。

問題は明確だ。関東から広島への修学旅行が構造的に少ない。その理由は距離やコストだけではない。もっと根深い「ノウハウの断絶」がある。

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距離とコストは本当にボトルネックか

まず「遠いから来ない」という説を検証する。

東京から広島まで新幹線で約4時間、片道約19,000円。往復で約38,000円。一方、東京から京都は約2時間15分、片道約14,000円。往復で約28,000円。差額は1人あたり約1万円。40人のクラスなら40万円の差だ。

この40万円は確かに小さくない。だが、修学旅行の総予算は中学校で1人あたり5〜7万円が相場。広島を入れた2泊3日のルートを組めば、京都・奈良の定番コースと大きくは変わらない。実際、関東から広島へ修学旅行を実施している学校はゼロではない。やっている学校はやっている。

つまり、コストは「決定的な壁」ではなく「言い訳にしやすい壁」だ。本当の壁は別にある。

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本当の壁は「教員が平和学習を教えられない」こと

修学旅行先を決めるのは、最終的には学校の教員だ。そして関東の教員の多くは、自分自身が修学旅行で広島に行った経験がない。京都・奈良で育ち、京都・奈良を修学旅行先に選ぶ。この再生産構造が何十年も続いている。

広島で平和学習を実施するには、事前学習が不可欠だ。原爆ドームを見て、資料館を回るだけでは「怖かった」「悲しかった」で終わる。それでは教育にならない。

効果的な平和学習には、こんな準備が必要になる。

広島市内には700基以上の原爆関連碑がある。それぞれに固有の物語がある。だが、どの碑をどの順番で回り、何を問いかけ、生徒にどう考えさせるか——このカリキュラム設計ができる関東の教員は極めて少ない。

広島市は関東の教員向けに平和学習研修会を実施しているが、参加者は年間で数十人規模にとどまる。1都3県の中学校は約3,500校。数十人では焼け石に水だ。

ノウハウがないから行かない。行かないからノウハウが蓄積されない。この悪循環が、関東と広島の間に「平和学習の断絶」を生んでいる。

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被爆体験の継承という時間制限

この問題には時間制限がある。

被爆者の平均年齢は85歳を超えた。直接証言を聞ける時間は、あと数年しかない。広島市は「被爆体験伝承者」の育成を進めており、現在約170人が活動しているが、需要に対して供給は足りていない。

修学旅行シーズン(5月・6月・10月・11月)に伝承者の講話を依頼しようとしても、予約が取れないケースが増えている。つまり、「行きたい」と思った学校ですら、コンテンツの供給不足で断念することがある。

ここに構造的な課題がある。需要を増やす努力と、供給を増やす努力が、まったく別の主体によってバラバラに行われている。広島市が研修会をやり、旅行会社がツアーを組み、伝承者が個別に講話を引き受ける。全体を設計している人がいない。

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中小企業が埋めるべき「空白」

ここからが本題だ。この構造的な空白は、中小の旅行・教育事業者にとって明確な商機になる。

1. 「平和学習パッケージ」の商品化

関東の教員が最も困っているのは「何をどう教えればいいかわからない」ことだ。であれば、事前学習の教材、現地のガイドプラン、事後学習のワークシートを一式にした「平和学習パッケージ」を商品化すればいい。

大手旅行会社もこの領域に手を出し始めているが、彼らの本業はあくまで「移動と宿泊の手配」だ。教育コンテンツの質で勝負するなら、広島の現場を知る中小事業者のほうが圧倒的に有利だ。

例えば、700基の碑から学校のテーマに合わせて10基を選び、90分のルートを設計する。碑ごとに「問い」を用意し、生徒が自分で考える仕掛けをつくる。これは現地を歩き込んでいる人間にしかできない仕事だ。

2. デジタル教材で「事前学習の壁」を下げる

事前学習のハードルを下げるために、動画教材やオンライン講話の仕組みをつくる手もある。被爆体験伝承者の講話を収録し、教室で視聴できるようにする。VRで原爆ドーム周辺を歩ける教材も、技術的にはすでに可能だ。

制作コストも劇的に下がっている。数年前なら映像教材の制作に300万円かかったものが、今は機材とAI編集ツールの進化で50万円以下で十分なクオリティが出せる。字幕の多言語化もAIで数万円。中小企業でも手が届く投資額だ。

3. 教員向け研修の「出張型」モデル

広島に来てもらう研修ではなく、関東の教員のもとに出向く「出張型研修」も有効だ。放課後の1時間で、平和学習の組み立て方を伝える。教員が「自分でもできそうだ」と思えれば、修学旅行先の選択肢に広島が入る。

この研修自体を有料にする必要はない。修学旅行の受注につながるなら、研修は「営業」だ。1校あたりの修学旅行受注額が数百万円になることを考えれば、出張研修のコスト(交通費+人件費で10万円程度)は十分に回収できる。

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「平和学習」は広島だけの話ではない

視野を広げれば、この構造は平和学習に限った話ではない。

地方には、その土地でしか学べないテーマがある。広島なら平和学習、瀬戸内なら海洋環境、尾道ならまちづくり。だが、そのテーマを「教育プログラム」として商品化し、関東や関西の学校に届けている地方の事業者はまだ少ない。

教育旅行市場は年間約3,000億円規模と言われる。この市場の大半をJTBやHISといった大手が押さえているが、彼らが提供しているのは「移動と宿泊」であって「学びの中身」ではない。学びの中身で勝負できるのは、現場を持つ地方の中小企業だ。

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で、結局どうすればいいのか

広島の中小事業者がやるべきことは3つだ。

1. まず1校、関東の学校と組んでみる。完璧なパッケージを作ってから営業するのではなく、1校の修学旅行を全力でサポートし、その実績を横展開する。

2. 教員の「わからない」を解消する教材を作る。動画でもPDFでもいい。教員が職員会議で「広島に行きたい」と提案できる材料を渡す。

3. 被爆体験のデジタルアーカイブに投資する。伝承者の高齢化は待ってくれない。今のうちに証言を記録し、教材として使える形に整える。これは社会的意義もあるし、ビジネスとしても長期的な資産になる。

関東から広島への修学旅行が増えない理由は、広島に魅力がないからではない。魅力を「使える形」にして届ける人がいないからだ。

その空白を埋めるのは、霞が関でも大手旅行会社でもない。広島の現場を知り、教育の価値を理解し、小回りの利く中小企業だ。

まずは1校。そこから始めればいい。

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