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2026.06.26

年商132億円の復活劇は本当か?——広島・JA全農ひろしまと「青ネギ爆盛り」から考える、地方の食産業が売り方を変えるだけで数字が動く構造

まず、このニュースの「数字」を冷静に見る

JA全農ひろしまが倒産寸前から年商132億円に復活した——そんな話がネットで拡散されている。だが、ここで立ち止まりたい。

JA全農ひろしまは県域の全農組織であり、個別の「農園」ではない。年商132億円という数字も、青ネギ単体で叩き出したわけではなく、県内の農畜産物全体の販売事業の規模感として捉えるべきだ。「倒産寸前」という表現も、JA組織の経営改革や事業再編の文脈で語られるべきもので、一般的な中小企業の倒産とは構造が違う。

つまり、「青ネギ爆盛りで132億円」というストーリーは、かなり盛られている可能性がある。

だが、それでもこのニュースには拾うべき本質がある。「売り方を変えるだけで、地方の農産物の数字は動く」という構造そのものは、間違いなく現実に起きていることだからだ。

青ネギ「爆盛り」で何が変わったのか

広島市内の外食シーンで、青ネギを大量に使ったメニューが増えているのは事実だ。お好み焼きにネギをこれでもかと載せる「ネギ盛り」は以前からあったが、ここ数年で居酒屋や定食屋にまで波及している。

なぜか。理由はシンプルで、青ネギは原価が安いからだ。

飲食店にとって、青ネギ1kg あたりの仕入れ価格は時期にもよるが200〜400円程度。100gの「爆盛り」をしても原価は20〜40円。見た目のインパクトは大きいのに、原価率はほとんど上がらない。SNS映えもする。客単価を上げなくても「お得感」を演出できる。

消費者側から見ても、物価高で外食を控えがちな中、700〜900円台で山盛りの青ネギが載った定食が出てくれば、満足度は高い。実際、広島市中心部の一部の店舗では、青ネギメニュー導入後に客数が1.2〜1.5倍に増えたという話もある。

ここで起きているのは、こういう構造だ。

三方よし。だが、これは「青ネギが美味しいから」ではなく、「青ネギの原価構造が、今の外食市場の課題にハマったから」だ。ここを見誤ると、「うちも特産品でやろう」という安易な模倣で失敗する。

コスト構造の変化が「売れるもの」を変える

少し引いて考えたい。

2023年以降、外食産業の原材料費は軒並み上がっている。鶏肉は2割増、食用油は3割増、小麦粉も高止まり。飲食店の原価率は30%が目安と言われるが、値上げしなければ35〜40%に迫る店も出てきた。

この状況で、「原価が安くて、量を出せて、見栄えがする食材」の価値が相対的に上がった。青ネギはまさにそこにハマった。

これは青ネギに限った話ではない。もやし、豆苗、キャベツ、大根——原価が安くてかさのある野菜は、今の外食市場で「武器」になり得る。

地方の中小農家にとって、ここにチャンスがある。

従来、地方の農産物は「ブランド化して高く売る」が正攻法とされてきた。広島レモン、瀬戸内の柑橘、比婆牛。もちろんそれは大事だ。だが、ブランド化には時間もコストもかかる。認知を取るためのPR費用、品質管理のコスト、流通の整備。年商数千万円規模の農家には、正直ハードルが高い。

一方、「安くて大量に使える食材を、外食の現場に直接つなぐ」というアプローチは、ブランド化とは真逆の戦略だ。単価は低いが、量が出る。量が出れば、生産計画が立てやすくなる。生産計画が立てば、設備投資の判断もしやすい。

ブランド化は「単価×少量」。爆盛り戦略は「低単価×大量」。 どちらが正しいかではなく、自分の経営体力と作れる量で選ぶべきだ。

「売り方」を変えるとは、流通を変えるということ

もう一つ、この事例で見逃せないのは流通の話だ。

青ネギが外食で大量消費されるようになった背景には、JA全農ひろしまが外食チェーンや地元飲食店と直接連携し、市場流通を通さないルートを作ったことがある。

通常、農産物は「農家→JA→卸売市場→仲卸→飲食店」という流れを辿る。この間に中間マージンが乗り、農家の手取りは小売価格の30%程度まで下がることも珍しくない。

これを「農家→JA→飲食店」に短縮すれば、農家の手取りは上がり、飲食店の仕入れ価格は下がる。双方にメリットがある。

ただし、これには条件がある。安定した量を、安定した品質で、決まったタイミングで届けられるか。個人農家単体では難しいが、JAや農業法人が間に入ることで実現できる。

ここに、中小企業が学ぶべき構造がある。

「いいものを作れば売れる」時代はとっくに終わっている。「誰に、どのルートで、どの量で届けるか」を設計すること自体が、商品開発と同じかそれ以上に重要だということだ。

中小の食関連事業者は、何をすべきか

具体的に落とし込む。

1. 地元の外食店と「使い方」を一緒に考える

農産物を「素材」として卸すだけでなく、メニュー開発に関わる。青ネギ爆盛りのように、「この食材をこう使えば、原価を抑えて客を呼べる」という提案ができれば、飲食店にとっては仕入れ先ではなくパートナーになる。

2. SNSでの「映え」を意識した出荷形態を考える

爆盛り青ネギがウケたのは、写真映えするからだ。飲食店が「盛りやすい」カット済みパック、彩りを意識した品種選定。出荷する側が「消費者の写真」まで想像できるかどうかで、採用率は変わる。

3. 流通コストを数字で把握する

市場流通と直接取引で、手取りがいくら変わるのか。配送コストはいくらかかるのか。ここを感覚ではなく数字で把握している農家は、驚くほど少ない。まずは自分の農産物の「流通コスト構造」を一度洗い出すことから始めるべきだ。

4. 「ブランド化」と「量販」を二項対立にしない

高単価のブランド品と、外食向けの量販品を同じ圃場で作り分ける。A品はブランドとして直売所やECで高く売り、B品・C品は外食向けに大量出荷する。この「二刀流」ができれば、廃棄ロスも減り、売上の安定性が格段に上がる。

広島・瀬戸内で、この構造はどこまで広がるか

広島には青ネギ以外にも、この「爆盛り戦略」にハマりそうな食材がある。

一方で、課題もある。

広島市内の外食市場は、人口約120万人の都市としては活発だが、東京や大阪と比べれば規模は小さい。「爆盛り」で量を出すには、ある程度の外食市場の厚みが必要だ。県内だけで完結させるのか、関西・九州まで商圏を広げるのか。物流コストとの兼ね合いで、最適解は変わる。

また、青ネギの生産量が増えれば、当然ながら単価は下がる。生産者が「量を出して薄利で回す」モデルに耐えられるかどうかは、経営体力次第だ。全農のような組織がバッファになれるうちはいいが、個人農家が同じ戦略を取れるかは別問題だ。

結局、何が起きているのか

まとめる。

「青ネギ爆盛りで年商132億円」という見出しは、正直そのまま鵜呑みにはできない。だが、その裏にある構造——物価高で外食の原価構造が変わり、「安くてかさのある食材」の価値が相対的に上がった。そこに流通の短縮と外食連携を組み合わせることで、地方の農産物に新しい需要が生まれた——これは本物だ。

そして、この構造は青ネギだけのものではない。

地方の中小の食関連事業者にとって、問いはシンプルだ。

「あなたの食材は、今の外食市場のどの課題を解決できるか?」

ブランド化だけが答えじゃない。「安くて、量が出せて、見栄えがする」——その価値を、流通の設計とセットで提案できるかどうか。

売り方を変えるだけで、数字は動く。ただし、「変える」とは、見せ方を変えることではなく、届け方の構造を変えることだ。そこを履き違えると、ただの一過性のバズで終わる。

広島の青ネギが教えてくれているのは、そういうことだと思う。