株式会社TradeSupport

2026.06.17

地場スーパー19社が「連合」で全国チェーンに挑む——広島発、中小企業が規模で負けても勝てる構造をつくれるか

1社では勝てない。だから19社で束になる

結論から言う。広島の地場スーパー19社が共同仕入れ・共同マーケティングで手を組んだ。狙いはシンプルで、「1社では全国チェーンに価格で勝てないから、束になってコスト構造を変える」ということだ。

これは単なる仲良しグループの話ではない。地方の中小企業が生き残るための構造転換の実験だ。

全国チェーンが広島市内に出店するたびに、周辺の地元スーパーの売上は軒並み落ちる。業界関係者の間では「半径2km圏内の地場店は売上2〜3割減が当たり前」と言われている。品揃え、価格、物流効率——すべてで規模の経済が効く全国チェーンに、年商数十億円規模の地場スーパーが単独で対抗するのは、正直に言って無理ゲーだ。

だから「連合」という選択肢が出てきた。これ自体は合理的だ。問題は、連合がちゃんと機能するかどうか。そこを掘り下げたい。

共同仕入れで「10%削減」は本当に効くのか

19社連合の柱は共同仕入れだ。目標は仕入れコスト10%削減。これを価格競争力に還元する。

10%という数字、小さく聞こえるかもしれない。だがスーパーの営業利益率は一般的に1〜3%だ。仕入れコストが売上の70%前後を占めるこの業態で、仕入れを10%下げられれば利益構造が根本から変わる。年商10億円の店なら仕入れ7億円、その10%で7,000万円。営業利益が1,000〜3,000万円の会社にとって、7,000万円のコスト削減は「倍以上の利益」を意味する。

ただし、ここには前提条件がある。19社の品揃えや商品規格をどこまで揃えられるか。地場スーパーの強みは「うちの店にしかない商品」「地元の農家から直接仕入れた野菜」といった独自性だ。共同仕入れを進めれば進めるほど、棚に並ぶ商品が均一化する。それは全国チェーンと同じ土俵に立つことを意味する。

共同仕入れで下げるべきは「差別化に関係ないコモディティ商品」のコストだ。調味料、洗剤、飲料——こうした商品は全国チェーンと同じものが並ぶ。ここで価格負けしないための共同仕入れなら理にかなう。一方で、鮮魚・青果・惣菜といった「地場の強み」は各社の独自仕入れを残す。この切り分けが連合の成否を分ける。

「たるポ」と広経レポート電子版——情報インフラの地殻変動

今回のもう一つの注目点は、広島経済レポート(広経レポート)の電子版スタートだ。会員基盤「たるポ」を通じて配信される。

これまで広経レポートは紙媒体が中心だった。購読者は広島の経営者層。紙の購読料は年間で数万円、届くのは週1回。つまり、情報の鮮度にも届く範囲にも限界があった。

電子版になると何が変わるか。

まず、速報性が上がる。紙で週1回だった情報が、デジタルならリアルタイムに届く。地場スーパーの連合ニュースも、競合チェーンの出店情報も、行政の補助金情報も、すぐに届く。中小企業の経営判断のスピードが変わる。

次に、届く範囲が広がる。紙の購読者は広島県内の経営者が中心だったが、電子版なら県外の投資家、取引先、UIターン検討者にも届く。広島の地域経済情報が「外に開く」ことで、資金や人材の流入につながる可能性がある。

そして、コストが下がる。紙の印刷・配送コストがゼロになるわけではないが、電子版の追加配信コストは限りなくゼロに近い。1部あたりの限界費用がほぼゼロになる情報ビジネスは、購読者が増えれば増えるほど収益性が上がる。地方メディアにとって、これは生存戦略そのものだ。

ただし、電子化すれば自動的に読者が増えるわけではない。「たるポ」の会員基盤がどこまで広がるか、コンテンツの質と更新頻度を維持できるか。ここが勝負どころになる。

バス8社の共同運行が教える「連合のリアル」

広島にはもう一つ、「連合」の先行事例がある。路線バス8社の共同運行実証だ。

広島のバス業界は長年、複数社が同じ路線を走る「競合路線」が多く、非効率の極みだった。ドライバー不足と利用者減少で単独では路線維持が困難になり、ようやく共同運行に踏み切った。共同運行によるダイヤ最適化で、運行コスト15%削減に成功したとされる。

この事例から地場スーパー連合が学ぶべきことは2つある。

1つ目は、「連合のコスト」は想像以上に高いということ。

バス8社の共同運行は、実現までに何年もかかった。各社の利害調整、ダイヤの統合、運賃体系の統一——意思決定に関わるステークホルダーが増えるほど、合意形成のコストは指数関数的に上がる。19社ともなれば、なおさらだ。「全員一致」を求めたら何も決まらない。意思決定のルール設計が最初の関門になる。

2つ目は、「共通化すべきもの」と「各社に残すもの」の線引きが命だということ。

バスの場合、ダイヤと運賃は共通化し、車両のブランドやサービスは各社に残した。スーパーなら、仕入れと物流は共通化し、店舗の個性や接客は各社に残す。この線引きを間違えると、連合は「没個性の集合体」になり、全国チェーンとの差別化要素を自ら捨てることになる。

中小企業が「連合」で勝てる本当の理由

ここで一つ、構造的な話をしたい。

全国チェーンの強みは「規模の経済」だ。大量仕入れ、全国統一のオペレーション、巨額の広告費。これに中小企業が1社で対抗するのは不可能だ。

だが、全国チェーンには決定的な弱点がある。「現場の裁量が小さい」ことだ。

全国チェーンの店長は、本部が決めた棚割り、本部が決めた価格、本部が決めた販促を実行する。地元の漁港で朝獲れた魚を昼には店頭に並べる、という判断は本部の承認なしにはできない。地元の祭りに合わせた惣菜を企画する、という機動力もない。

地場スーパーの強みは、まさにここだ。店長が仕入れの権限を持ち、地元の生産者と直接つながり、その日の天気や客層に合わせて売り場を変えられる。この「現場の意思決定スピード」は、規模では買えない。

連合の本質は、「規模の経済が効く領域(仕入れ・物流・システム)は束になってコストを下げ、現場の機動力が効く領域(品揃え・接客・地域密着)は各社の自由に任せる」という二層構造をつくることだ。

これができれば、全国チェーンの「規模」と地場スーパーの「機動力」の両方を手に入れられる。逆に言えば、これができなければ連合の意味はない。

で、結局どうなるのか

正直に言えば、19社連合が成功するかどうかはまだわからない。連合の歴史を見れば、うまくいった例より空中分解した例の方が多い。

だが、この動きには注目すべき理由がある。

第一に、広島という市場の特殊性。 広島県は人口約275万人、都市圏としてはそれなりの規模がありながら、全国チェーンの本格進出が他の地方都市に比べてやや遅かった。つまり、地場スーパーがまだ体力を残しているうちに連合を組めた。これが人口50万人の県で、すでに全国チェーンにシェアを奪われた後だったら、手遅れだったかもしれない。

第二に、デジタルインフラとの連動。 広経レポートの電子版と「たるポ」が、連合の情報共有基盤として機能する可能性がある。19社がリアルタイムで市場情報を共有し、共同で販促を打てるようになれば、連合の価値は仕入れコスト削減だけにとどまらない。

第三に、他の業種への波及。 スーパーで連合が機能すれば、同じモデルを飲食、小売、サービス業に横展開できる。地方の中小企業が業種横断で連合を組み、全国チェーンに対抗する——そんな構造が生まれれば、地方経済の景色は変わる。

広島の地場スーパー19社の実験は、「地方の中小企業は全国チェーンに勝てるのか」という問いに対する、一つの回答になりうる。成功するかどうかは、「何を共通化し、何を各社に残すか」の線引きにかかっている。

注視すべきは、半年後、1年後の数字だ。共同仕入れで本当に10%下がったのか。連合参加店の売上は維持できたのか。客数は増えたのか。抽象的な「連携の成果」ではなく、具体的な数字で検証されるべきだ。

地方の中小企業にとって、「1社で戦う時代」は終わりつつある。問題は、「束になって戦う」ための仕組みを、どれだけ賢く設計できるかだ。