結論から言う。「次の仕事」は来る。ただし、取りに行ける企業は限られる。
呉市が防衛産業への新規参入セミナーを開催し、約100社が集まった。東広島では初のオープンファクトリーに親子連れ含む約70人が参加した。どちらも「地方の製造業に未来はあるのか」という問いに対するアクションだ。
だが、同じ広島県で鉱工業生産指数は6月に前月比1.4%減。足元の現実は厳しい。防衛需要という「新しい仕事」と、人材不足という「古い課題」。この2つを同時に見なければ、地方の町工場の未来は語れない。
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呉の防衛参入セミナー——100社が集まった「本気度」と「不安」
呉市がセミナーを開いた背景は明確だ。日本製鉄瀬戸内製鉄所呉地区の跡地に、防衛省が複合防衛拠点を整備する計画が動いている。2023年度の防衛費は約6.8兆円、2027年度には約8.9兆円規模への増額が閣議決定されている。5年間で総額約43兆円。この数字は、地方の製造業にとって無視できない規模だ。
セミナーには建設業、製造業、サービス業など約100社が参加した。防衛装備庁の担当者は「中小企業の技術を防衛装備品に転用し、サプライチェーンの裾野を広げたい」と説明した。
100社が集まったこと自体が、地域の製造業の危機感を示している。呉は造船・鉄鋼の街だ。日鉄呉地区の閉鎖で約3,000人規模の雇用が失われたとされる。下請け・孫請けを含めれば影響はさらに広い。「防衛でも何でもいいから、次の仕事が欲しい」——そう思っている経営者は少なくないはずだ。
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参入のハードル——「やりたい」と「やれる」の間にある壁
問題は、防衛産業への参入が中小企業にとって簡単ではないことだ。
まず設備投資。防衛装備品は一般的な民生品と比べて品質管理基準が格段に厳しい。ISO 9001に加え、防衛省独自の品質管理基準(NDS規格など)への適合が求められるケースがある。検査設備の導入、品質管理体制の構築だけで数百万〜数千万円の投資が必要になる。
次に受注構造。防衛産業の受注は、プライム企業(三菱重工、川崎重工、IHIなど)を頂点としたピラミッド構造だ。中小企業が直接防衛省から受注するケースは稀で、多くは2次・3次下請けとして参入する。つまり、受注単価はプライム企業が決め、中小企業の交渉力は限定的だ。
「防衛関連の仕事を受注するには、まず設備投資が必要。数千万円単位の資金が必要になり、リスクが大きい」と語る中小企業の経営者の声は、現実をよく表している。
さらに言えば、防衛予算は政治に左右される。今は増額基調だが、5年後、10年後も同じ保証はない。防衛一本足打法で設備投資した企業が、予算削減で仕事を失うリスクは常にある。
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では、中小企業はどう動くべきか
ここで「だから防衛産業はやめておけ」と言いたいわけではない。問うべきは「どう参入するか」だ。
注目すべきは、防衛装備庁が近年推進している「民生技術の防衛転用」の流れだ。ドローン部品、センサー技術、通信機器の筐体加工、特殊素材の溶接——こうした分野では、民生品で培った技術がそのまま防衛装備品に活かせる可能性がある。つまり、新たに大規模な設備投資をしなくても、既存技術の「見せ方」を変えるだけで参入できる領域がある。
ポイントは3つ。
1. 既存技術の棚卸し。 自社の技術が防衛分野のどこに使えるか、具体的にマッチングする。セミナーに参加して「面白そうだ」で終わらせない。防衛装備庁の「装備品等についての提案募集」に目を通し、自社技術との接点を探る。
2. 単独参入ではなく、連携参入。 品質管理体制の構築や営業活動を1社で抱えるのは負担が大きい。呉市内、あるいは広島県内の中小企業が数社でコンソーシアムを組み、役割分担して参入するモデルが現実的だ。実際、他地域では中小企業数社が共同で防衛関連の品質認証を取得した事例がある。
3. 防衛「だけ」に賭けない。 民生品と防衛品の両方を手がけるデュアルユース戦略が鍵だ。防衛受注が減っても民生品で食える体制を維持する。これは中小企業のリスク管理の基本だが、「防衛バブル」の空気の中では忘れがちになる。
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東広島オープンファクトリー——「仕事を取る」前に「人を取る」問題
呉の防衛参入セミナーが「仕事をどう取るか」の話だとすれば、東広島のオープンファクトリーは「人をどう取るか」の話だ。
東広島で初めて開催されたオープンファクトリーには約70人が参加し、地域の製造業の現場を見学した。親子連れの参加が多かったという。製造業の魅力発信、次世代への認知拡大が目的だ。
この取り組み自体は良い。だが、正直に言えば70人という数字は小さい。東広島市の人口は約19万人。70人では、製造業のイメージを変えるにはまだ足りない。
広島県の製造業における有効求人倍率は依然として高止まりしており、特に溶接工、機械オペレーターなどの技能職は慢性的な人手不足だ。防衛産業に参入して仕事が取れたとしても、それを回す人がいなければ意味がない。
オープンファクトリーを「年1回のイベント」で終わらせるのか、「継続的な採用・育成の仕組み」に発展させるのか。ここが分かれ目になる。
先行事例として参考になるのは、新潟県燕三条の「工場の祭典」だ。2013年から毎年開催され、2023年は約6万人が来場した。地域の製造業のブランド価値を上げ、移住者や若手人材の流入にもつながっている。東広島が目指すべきはこのスケール感だろう。
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2つの動きを「線」でつなげられるか
呉の防衛参入セミナーと東広島のオープンファクトリー。この2つの動きは、一見バラバラに見える。だが、本質は同じだ。
「地方の製造業は、このままでは仕事も人もなくなる」という危機感。
防衛需要は確かにチャンスだ。だが、それは「来るのを待つ」ものではなく「取りに行く」ものだ。しかも、取りに行くための人材がいなければ話にならない。
呉と東広島は車で40分の距離だ。防衛参入を目指す呉の企業が、東広島のオープンファクトリーで人材を発掘する。東広島の製造業が、呉の防衛関連サプライチェーンに参画する。こうした「地域内連携」が実現すれば、単独の取り組みでは生まれない価値が出る。
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で、結局どうすればいいのか
地方の町工場の経営者に伝えたいことは3つだ。
1. 防衛需要は「宝くじ」ではない。 43兆円という数字に踊らされず、自社技術との接点を冷静に見極める。設備投資は最小限から始め、まず小さな案件で実績を作る。
2. 1社で戦わない。 品質管理、営業、技術開発——すべてを1社で抱えるのは無理がある。地域の企業同士で連携し、チームで参入する。行政にはその「つなぎ役」を求めたい。
3. 仕事の前に人。 どんなに良い仕事があっても、回す人がいなければ受けられない。オープンファクトリーのような取り組みを一過性で終わらせず、地域の製造業全体で人材育成の仕組みを作る。
防衛費43兆円。鉱工業生産指数マイナス1.4%。オープンファクトリー参加者70人。
この3つの数字が示しているのは、「チャンスはあるが、そのままでは届かない」という現実だ。届かせるために何をするか。答えは東京にはない。呉と東広島の現場にある。
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