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2026.06.25

副市長に総務省課長、市長5選、議員定数維持——広島の「統治コスト」は適正か?人口が減るのに、行政の頭数は減らないこの国の構造問題

人口は減る。でも議員も副市長も市長も減らない。

広島県議会が議員定数64の維持を決めた。同じ中国地方の山口県議会は47から45へ削減する。広島市では松井一実市長が5選出馬を表明し、副市長には総務省自治行政局の森川世紀氏が起用される。

これらのニュースを個別に見れば、それぞれに理屈はある。だが、並べて見ると一つの問いが浮かぶ。

人口が減り続ける地方で、「統治にかかるコスト」はこのままでいいのか?

まず数字を見よう

広島県の人口は約274万人(2024年推計)。2015年の約284万人から10万人減った。2040年には230万台まで落ちるとの推計もある。つまり、ここから20年弱でさらに40万人以上が消える計算だ。

その中で、県議会の定数は64のまま据え置かれた。単純に割ると、議員1人あたり約4万2,800人。山口県は人口約129万人で定数45だから、議員1人あたり約2万8,700人。数字だけ見れば広島のほうが「効率的」に見える。

だが、問題の本質はそこじゃない。

人口が減っているのに、定数を「維持」する判断に、どんなロジックがあるのか。

「減らすと行政サービスが低下する」という声がある。本当にそうか? 議員が64人いることで、具体的にどの行政サービスが守られているのか。それを説明できる県議が何人いるだろうか。

議員1人あたりの年間コストは、報酬・政務活動費・事務局人件費を含めるとざっくり2,000万〜2,500万円。64人で年間約13億〜16億円。仮に山口県のように2議席減らすだけでも、年間4,000万〜5,000万円が浮く。10年で5億円だ。

5億円あれば何ができるか。過疎地域のコミュニティバスを10路線、10年間維持できる。議員2人分の「代表機能」と、住民の移動手段10路線分。どちらが住民の生活に直結するか。答えは明白だろう。

副市長に総務省キャリア——その「人件費」は何を生むのか

広島市の副市長に総務省自治行政局の森川世紀氏が起用される。中央省庁からの副市長ポスト起用は珍しくない。霞が関とのパイプ、補助金獲得のノウハウ、制度設計の知見——メリットは確かにある。

だが、ここでもコストの話をしたい。

副市長の年間報酬は約1,200万円。これに退職手当の積立、秘書・車両などの付帯コストを加えれば、実質的な年間コストは1,500万〜1,800万円に達する。広島市には副市長が3人いる。合計で年間4,500万〜5,400万円。

問いたいのは金額の多寡ではない。その投資に対して、何がリターンとして返ってきているのかだ。

総務省出身の副市長が来ることで、例えば国の交付金を年間いくら多く引っ張れたのか。制度設計でどれだけ業務効率化が進んだのか。具体的な数字で語られた例を、少なくとも広島市の公式発表では見たことがない。

中小企業の経営で考えれば当たり前の話だ。年間1,500万円の人件費をかけるなら、「この人が来たことで売上がいくら増えたか、コストがいくら下がったか」を問う。行政だけがその問いを免除される理由はない。

市長5選——「長期政権」のコストとは何か

松井一実市長が5選出馬を表明した。当選すれば在任20年になる。

長期政権には功罪がある。政策の継続性、人脈の蓄積、意思決定の速さ。一方で、組織の硬直化、チェック機能の形骸化、新しい発想の排除。

ここで考えたいのは「機会コスト」だ。

市長が変わらないことで、試されなかったアイデア、登用されなかった人材、見送られた改革がどれだけあるか。これは数字にしにくいが、20年という時間の重みを考えれば無視できない。

広島市の人口は2004年の約117万人から2024年の約118万人へ、20年でほぼ横ばいだ。政令指定都市の中では「現状維持」に見えるが、周辺の呉市(約21万→約20万)、東広島市の伸び鈍化を考えれば、広島都市圏全体としては縮小トレンドにある。

この20年で広島市が全国から注目される新産業を生んだか。若者の流出を止める仕組みを作れたか。「平和都市」以外のブランドを確立できたか。厳しい問いだが、5選を問うなら避けて通れない。

本質は「統治の設計思想」の問題

議員定数、副市長人事、市長の多選。これらはバラバラの話に見えて、実は一つの構造問題を指している。

日本の地方行政は、人口が増えていた時代の設計のまま走り続けている。

人口が増えていた時代は、議員が多いほど多様な声を拾えた。副市長を増やせば業務を分担できた。市長が長くやれば安定した。それが合理的だった時代は確かにあった。

だが、人口が減る時代の合理性は違う。

ここにAIやデジタルツールの話が絡む。議会の議事録分析、住民の声のテキストマイニング、予算配分の最適化シミュレーション——これらは今、中小企業でも月額数万円で使える時代だ。議員64人が「住民の声を届ける」機能の一部は、テクノロジーで代替可能になりつつある。

もちろん、議会の機能は「声を届ける」だけではない。権力の監視、条例の制定、予算の承認。だが、その機能を果たすのに本当に64人必要なのか。40人ではダメなのか。その問いに正面から答える議論が、広島県議会で行われた形跡はない。

中小企業の経営者なら、こう考える

地方の中小企業は、人口減少の影響をもろに受けている。採用は困難、売上は漸減、コスト削減は限界——そんな中で必死に生産性を上げている。

社員10人の会社が8人になったら、役員を減らすか、一人あたりの生産性を上げるか、あるいはその両方をやる。「役員の数は維持します。でも売上は減ります」と言う経営者がいたら、株主(=住民)は納得しない。

行政も同じだ。人口が減るなら、統治コストも最適化しなければならない。削ればいいという話ではない。「同じコストでより高い成果を出す」か「より少ないコストで同じ成果を出す」か。そのどちらかを選ぶ覚悟が要る。

広島県議会の定数維持は、その覚悟が見えない判断だった。松井市長の5選出馬は、変化より安定を選ぶ判断だ。副市長への総務省キャリア起用は、中央依存の構造を温存する判断だ。

どれも「間違い」とは言い切れない。だが、「このままでいいのか」という問いに対して、「このままでいい」と答えているように見える。

で、結局どうすればいいのか

3つ提案したい。

1. 議員定数は「人口あたり」ではなく「成果あたり」で議論せよ。
議員が何人いるかより、議会が年間いくつの政策提言を行い、そのうちいくつが実行され、どんな成果を生んだか。その数字を公開した上で、定数の議論をすべきだ。

2. 副市長の「KPI」を公開せよ。
年間1,500万円の投資に対して、何を達成するのか。就任時に目標を設定し、年度末に成果を公表する。民間では当たり前のことを、行政でもやるだけだ。

3. 市長の多選には「成果レビュー」を制度化せよ。
3期目以降の出馬には、過去の任期中の主要KPI(人口推移、企業誘致数、財政健全度、住民満足度など)を第三者機関が評価し、公表する仕組みを作る。有権者が「実績」で判断できる材料を提供すべきだ。

どれも技術的には難しくない。やるかやらないかだけの話だ。

人口が減る時代に、統治の仕組みだけが昭和のまま残る。その矛盾に最初に気づくのは、毎日の経営で数字と向き合っている中小企業の経営者たちだろう。

広島の行政は、その声に耳を傾けているか。