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2026.05.07

利用者6人に60万円——東広島の乗合タクシー、世羅の花バス休止、宮島の遊覧船。「地方の足」が消える本当の理由はコスト構造にある

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利用者6人に60万円——東広島の乗合タクシー、世羅の花バス休止、宮島の遊覧船。「地方の足」が消える本当の理由はコスト構造にある

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2カ月で6人。1人あたり10万円の「無料タクシー」

東広島市が走らせた無料乗合タクシー。2カ月間の利用者は、たった6人だった。

タクシー1台を2カ月運行するコストを考えてみる。人件費、燃料代、車両リース、保険料。控えめに見積もっても月30万円、2カ月で60万円はかかる。6人で割ると、1人を運ぶのに約10万円。無料どころか、税金で1人10万円のタクシーを走らせていた計算になる。

同じ時期、世羅町では観光シーズンの「花めぐりバス」が2026年度から運行休止と決まった。宮島では重油高騰で遊覧船の経営が圧迫されている。

3つの事例に共通するのは「赤字だから潰れる」という単純な話ではない。そもそもの設計が、乗る人のことを見ていないという構造の問題だ。

東広島の乗合タクシー——「走らせれば乗る」という幻想

東広島市の無料乗合タクシーは、中山間地域の高齢者の移動手段として企画された。趣旨は正しい。だが結果は6人。なぜか。

まず、ルートと時刻が固定されていた。週に数便、決まったルートを走る。これは路線バスの縮小版でしかない。高齢者が「病院に行きたい」「買い物に行きたい」と思うタイミングは、週2回の固定ダイヤとは一致しない。

次に、周知の問題。対象エリアの高齢者にとって、市の広報やウェブサイトでの告知は届きにくい。そもそもスマホを持っていない人も多い。「無料です、どうぞ」と言っても、存在を知らなければ乗りようがない。

そして最大の問題は、需要の調査をせずに供給を作ったこと。「このエリアに何人の高齢者がいて、週に何回、どこに行きたいのか」。この基本的なデータを取らずに走らせた結果が、2カ月6人だ。

1人10万円。この数字を見て「仕方ない」と思うか、「設計を変えれば1人1,000円にできるのでは」と思うか。ここが分岐点になる。

世羅の花バス——観光と生活の足を混ぜた設計の限界

世羅町の「花めぐりバス」は、春の観光シーズンに合わせて世羅高原の花園を巡る周遊バスだ。年間の運行経費は推定で300〜500万円規模。観光客の足として一定の役割を果たしてきたが、利用者数の減少に歯止めがかからず、休止が決まった。

ここにも設計の問題がある。

花めぐりバスは「観光客向け」の交通手段だ。だが、世羅町の本当の交通課題は「日常の足がない」こと。観光バスに予算を使っても、地域住民の移動問題は解決しない。一方で、観光客はレンタカーや自家用車で来る人が大半。バスがなくても来る人は来るし、バスがあっても来ない人は来ない。

観光の足と生活の足は、求められる設計がまったく違う。観光バスは「体験価値」を乗せなければ意味がない。単なる移動手段としてのバスなら、車で来る観光客には選ばれない。世羅の花園を巡りながらガイドが解説する、地元の食を車内で楽しめる——そういう「乗ること自体が体験」になる設計なら、1人3,000円でも払う人はいる。

だが実態は、普通の路線バスに近い形で花園の入口を回るだけ。これでは「わざわざバスに乗る理由」がない。年間300万円以上かけて、乗る理由のないバスを走らせていた。これもまた設計ミスだ。

宮島の遊覧船——重油高騰は「きっかけ」にすぎない

宮島の遊覧船は、重油価格の高騰で月50万円以上のコスト増に直面している。年間にすれば600万円以上。小規模な遊覧船事業者にとって、これは致命的な数字だ。

だが、重油高騰は本質的な問題ではない。燃料費が上がる前から、遊覧船の収益構造は脆かった。

宮島への渡航はJR西日本のフェリーと広島電鉄の船が担っている。遊覧船はあくまで「付加価値」の位置づけだが、その付加価値が料金に見合っているかが問われている。30分の遊覧で1,500円。インバウンド客にとっては安いが、国内の家族連れにとっては「厳島神社を見たらもう十分」となりがちだ。

重油が上がったから値上げする、本数を減らす——これは対症療法でしかない。問うべきは「遊覧船でしか得られない体験は何か」だ。大鳥居を海上から見る、夕暮れの瀬戸内を船上から眺める。そこに食事やガイドを組み合わせれば、単価3,000〜5,000円の「体験商品」に変えられる可能性がある。燃料費が月50万円上がっても、客単価が2倍になれば吸収できる。

1人を運ぶコスト——比較すると見えてくるもの

ここで3つの事例を「1人あたりの運行コスト」で並べてみる。

事例 推定運行コスト(月) 利用者数(月) 1人あたりコスト
東広島・乗合タクシー 約30万円 約3人 約10万円
世羅・花めぐりバス 約80万円(シーズン月) 推定200〜300人 約3,000〜4,000円
宮島・遊覧船 約150万円〜 推定2,000人〜 約750円〜

東広島の異常さが際立つ。だが世羅も、補助金なしでは成立しない水準だ。宮島は利用者数で成り立っているが、重油高騰でその均衡が崩れつつある。

では、オンデマンド配車ならどうか。

福山市や三次市で実証が進むオンデマンド交通の場合、車両1台あたりの月間運行コストは約25〜40万円(ドライバー人件費込み)。AIが需要を束ねることで、1台あたり月200〜400人の利用を実現している事例がある。1人あたり1,000〜2,000円。東広島の10万円と比べれば、100分の1だ。

さらに将来、自動運転レベル4が中山間地域で実用化されれば、ドライバー人件費(月20万円前後)が消える。1人あたりコストは500〜1,000円まで下がる可能性がある。

「設計」を変えれば、地方の足は残せる

3つの事例が示しているのは、地方交通の敵は「人口減少」でも「赤字」でもないということだ。敵は、需要を見ない設計と、変えない運用にある。

東広島の乗合タクシーは、固定ルート・固定ダイヤをやめて、電話一本で呼べるオンデマンド型に切り替えるべきだ。高齢者がスマホを使えないなら、電話受付をAIが処理すればいい。技術的にはもう可能だ。

世羅の花バスは、「移動手段」ではなく「体験商品」として再設計すべきだ。ガイド付き、食事付き、1人5,000円の周遊ツアーにすれば、100人集めれば50万円の売上になる。補助金に頼らず回せる構造が作れる。

宮島の遊覧船は、客単価を上げる体験設計と、電動船への転換でコスト構造を変える。重油依存から脱却すれば、燃料費の変動リスクも減る。

どれも「新しい技術を入れろ」という話ではない。「誰が、いつ、なぜ乗るのか」を起点に設計し直せ、という話だ。

で、結局どうすればいいのか

地方自治体の交通担当者に言いたい。

まず、乗る人に聞いてくれ。

「いつ、どこに行きたいですか」。この質問を100人にすれば、固定ルートが正解かオンデマンドが正解か、すぐにわかる。それをせずに「とりあえず走らせてみよう」では、2カ月6人が繰り返されるだけだ。

次に、1人あたりコストを必ず計算してくれ。年間予算と年間利用者数を割るだけでいい。1人1万円を超えていたら、設計が間違っている。そのお金でタクシーチケットを配った方がよほど住民のためになる。

そして、民間と組んでくれ。オンデマンド配車の導入コストは、システム利用料で月10〜30万円程度。自前でバスを走らせるより安い。中小のタクシー会社と組めば、車両も人も新たに用意する必要がない。

地方の足は、消えるべくして消えているのではない。設計を変えれば、残せる。その設計を変える最初の一歩は、走らせる前に「誰のために走るのか」を問うことだ。

2カ月6人。この数字を、ただの失敗談で終わらせてはいけない。