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2026.07.31

佃煮メーカー破産、ヱビスバー閉店、ゴーゴーカレー撤退——広島で相次ぐ「閉じる店」が突きつける、地方飲食・食品業の損益分岐点

3つの「閉店」が示す、地方飲食・食品業のリアルな撤退ライン

佃煮メーカーが破産した。ヱビスバーが閉店した。ゴーゴーカレーが広島から消えた。

この3つの出来事を「残念ですね」で終わらせてはいけない。なぜなら、これらは偶然ではなく、地方の飲食・食品業が直面している構造的な問題の表出だからだ。

原材料費、人件費、家賃——この3つのコストがじわじわと上がり続ける中で、売上が横ばいか下がっている。その交差点が「撤退ライン」だ。では、そのラインは具体的にどこにあるのか。3つの事例から読み解く。

佃煮メーカー破産:原材料費高騰×売上減の「挟み撃ち」

福山市の佃煮製造会社が破産手続きの開始決定を受けた。負債総額は約2億3700万円。

直接的な引き金は工場火災だが、それ以前から経営は厳しかった。売上の減少と原材料費の高騰。この2つに同時に挟まれたら、中小の食品メーカーはほぼ詰む。

佃煮の主原料であるちりめん(しらす)の価格を見てほしい。水産庁の統計によれば、しらす類の産地価格はここ数年で大きく変動しており、不漁の年には前年比30〜50%の上昇も珍しくない。仮にちりめんの仕入れ原価が30%上がったとしよう。佃煮の原価率が40%だった場合、原価率は52%に跳ね上がる。売価を据え置けば、粗利は48%から38%に激減する。

年商2億円規模の会社なら、粗利が10ポイント落ちるだけで2000万円の利益が消える計算だ。ここに工場火災が重なれば、再建は極めて難しい。

しかし本質的な問題は火災ではない。「原材料価格の上昇を売価に転嫁できなかった」ことだ。スーパーのPB商品や大手メーカーの佃煮と棚を争う中で、中小メーカーが値上げすれば棚から外される。かといって据え置けば赤字になる。この構造こそが、地方の食品製造業を追い詰めている。

ヱビスバー閉店:駅前一等地の「家賃負け」

広島駅南口エリアの商業施設「ekie」内にあった「ヱビスバー広島店」が、2024年に閉店した。2014年の開業から約9年半。中四国初の店舗として話題になったが、静かに幕を下ろした。

ヱビスバーの閉店を読み解くキーワードは「家賃」だ。

広島駅周辺の商業施設内テナントの家賃相場は、坪あたり月額2万〜4万円と言われる。仮に30坪の店舗で坪3万円なら、月額家賃は90万円。年間で1080万円だ。これに共益費や売上歩合賃料が加われば、年間の不動産コストは1200万〜1500万円に達する可能性がある。

飲食店の一般的な損益構造で考えてみよう。家賃比率の健全ラインは売上の10%以内とされる。家賃が年間1200万円なら、最低でも年商1億2000万円が必要だ。月商1000万円。30坪の店舗で月商1000万円を維持し続けるのは、相当にハードルが高い。

さらに、広島駅周辺は近年の再開発で飲食店が急増した。ekieだけでなく、駅ビルASSE(閉館)からの移転組、周辺の新規出店が相次ぎ、限られたパイを奪い合う構図が強まった。ヱビスバーのようなプレミアムビール業態は客単価こそ高いが、回転率が低い。駅前の高家賃を回転率で吸収できるラーメン店やファストフードとは、構造的に不利だ。

結局、「いい立地」は「高い家賃」とセットだ。 そして高い家賃を払い続けるには、その立地に見合った集客力と回転率が必要になる。ブランド力だけでは家賃は払えない。

ゴーゴーカレー撤退:人件費高騰×低単価の「詰み」

広島市中区大手町の「ゴーゴーカレー」が閉店し、広島県内の店舗はゼロになった。金沢発祥のカレーチェーンとして一定のファンを持っていたが、広島からは完全撤退だ。

ゴーゴーカレーの客単価は700〜900円程度。いわゆる「ワンコインプラス」の価格帯だ。この価格帯のファストフードが地方都市で利益を出すには、1日あたりの客数が勝負になる。

仮に客単価800円、1日100人の来客で日商8万円。月商240万円。ここから原価率35%(84万円)、人件費率30%(72万円)、家賃率15%(36万円)を引くと、残りは48万円。ここから光熱費、本部ロイヤリティ、雑費を差し引けば、営業利益はほぼゼロか赤字だ。

問題は、この計算の前提がすでに崩れていることにある。広島県の最低賃金は2024年10月に1020円に引き上げられた。2020年の871円から約17%の上昇だ。パート・アルバイト中心のファストフード業態にとって、この上昇幅は致命的に効く。

1日あたりアルバイト延べ40時間の店舗なら、時給150円の上昇で1日6000円、月18万円のコスト増。年間で216万円だ。月商240万円の店にとって、年216万円のコスト増は利益を根こそぎ奪う。

低単価×低回転×人件費上昇。この3つが揃ったとき、地方のファストフードは「詰み」になる。 ゴーゴーカレーの撤退は、その典型例だ。

生き残る店は何が違うのか——「3つのコスト」の構造差

では、同じ環境下で生き残っている店は何が違うのか。

答えはシンプルだ。「3つのコスト(原材料費・人件費・家賃)のうち、最低1つを構造的に低く抑えている」か、「売価を上げても選ばれる理由を持っている」か、そのどちらかだ。

パターン1:家賃を劇的に下げる

駅前一等地ではなく、住宅街や郊外に構える。あるいは自社物件を持つ。家賃が月10万円なら、月商100万円でも家賃比率は10%に収まる。広島市内でも、中心部から少し外れた舟入や段原あたりで人気店が増えているのは、この構造が効いている。

パターン2:原材料を自前で調達する

瀬戸内エリアには、漁師が直接経営する飲食店や、農家が加工品を作って直売するケースが増えている。仕入れの中間マージンがゼロになれば、原価率は10〜15ポイント下がる。これは粗利で見れば圧倒的な差だ。

パターン3:人件費を「投資」に変える

人件費を「コスト」として削るのではなく、少人数で高い生産性を出す仕組みを作る。たとえば、券売機やモバイルオーダーの導入で接客工数を減らし、調理に集中する。あるいは、メニューを絞り込んでオペレーションを単純化する。広島のお好み焼き店が1〜2人で回せるのは、「鉄板の前に立つ人=調理も接客もこなす」という業態設計のおかげだ。

パターン4:値上げしても選ばれる「理由」を持つ

これが最も本質的だが、最も難しい。ただ、地方の中小だからこそできることがある。「この店でしか食べられない」「この人が作っている」「この場所だから意味がある」——大手チェーンには絶対に真似できない文脈を持つ店は、値上げしても客が離れない。ゴーゴーカレーやヱビスバーが苦しんだのは、「広島でなければならない理由」が薄かったからではないか。

で、結局どうすればいいのか

地方の飲食・食品業の経営者に伝えたいことは3つだ。

1. 自社の「撤退ライン」を数字で把握しているか?

原材料費があと何%上がったら赤字になるのか。最低賃金があと何円上がったら利益が消えるのか。家賃比率は売上の何%か。この3つの数字を即答できない経営者は、気づいたときには手遅れになる。佃煮メーカーの破産は、その典型だ。

2. 「コストを下げる」と「価値を上げる」を同時にやれ。

どちらか一方では生き残れない時代に入っている。AIやデジタルツールでオペレーションコストを下げながら、商品やサービスの独自性を高める。たとえば、AIを使った需要予測で食品ロスを減らし、浮いたコストを食材の質に回す。こういう「コスト削減→価値向上」の循環を作れるかどうかが勝負だ。

3. 「広島でやる理由」を言語化せよ。

瀬戸内の食材、広島の食文化、地元の顧客との関係性。これらは東京の大手チェーンが逆立ちしても手に入らない資産だ。ゴーゴーカレーが撤退し、地元のお好み焼き店が残る。この差は「その土地でやる必然性」の差でもある。

閉じる店には、必ず理由がある。そしてその理由の多くは、「なんとなく続けてきた」ことの帰結だ。原材料費が上がった。人件費が上がった。競合が増えた。それでも「なんとかなるだろう」で走り続けた先に、破産や撤退がある。

逆に言えば、数字を見て、構造を理解し、手を打てる経営者には、まだチャンスがある。地方の中小企業は、小さいからこそ舵を切るのが早い。大手チェーンが撤退した後の市場は、地元のプレイヤーにとって空白地帯になる。

広島の飲食・食品業の「次の勝ち筋」は、閉じた店の跡地から始まるのかもしれない。