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2026.04.11

フジ7期連続増収でも営業減益——瀬戸内の小売が「売上は伸びるのに儲からない」構造を壊すには

フジ7期連続増収でも営業減益——瀬戸内の小売が「売上は伸びるのに儲からない」構造を壊すには

売上は伸びている。なのに儲からない。これが、地方小売の現実だ。

フジの2026年2月期決算は営業収益8,142億円、前期比0.7%増。7期連続の増収だ。だが営業利益は減少した。人件費の上昇、物流コストの高騰、エネルギーコストの増加——売上の伸びを、コストの伸びが上回った。フジほどの規模でこうなるのだから、年商数億円の地場スーパーや個人の食品小売はもっと厳しい。

この「増収減益」構造は、瀬戸内エリアの中小小売・飲食業にとって他人事ではない。むしろ、ここにこそ中小企業がAIやデータを使って大手に勝てる余地がある。

なぜ売上が伸びても利益が減るのか——コスト構造の分解

まず、何がコストを押し上げているのかを分解する。

1. 人件費
2024年10月の最低賃金改定で、広島県は時給1,020円から1,070円へ、愛媛県は897円から956円へ引き上げられた。フジのようなスーパーはパート・アルバイト比率が高く、最低賃金の上昇は直撃する。従業員100人のスーパーで全員が時給50円上がれば、年間の人件費増は約1,200万円。売上が1%伸びても、この増加分を吸収できない店舗は多い。

2. 物流コスト
2024年問題(トラック運転手の時間外労働上限規制)の影響で、配送単価は前年比10〜15%上昇している。特に瀬戸内エリアは島嶼部への配送があり、本州内の店舗より物流コストが割高だ。しまなみ海道沿いの店舗への配送は、橋の通行料(大型車片道約5,000〜7,000円)も上乗せされる。

3. 原材料価格の乱高下
鶏肉の輸入価格(主にブラジル産)は、2023年比で約20%上昇。広島市内のスーパーでは、からあげ用鶏肉を国内産に切り替える動きが出ているが、国内産は輸入品より1kgあたり約200〜300円高い。一方、コメは「令和の米騒動」後の増産と需要減で値下がり傾向にあり、5kg袋で200〜300円の下落が見られる。仕入れ品目ごとに値動きがバラバラで、一律の価格転嫁が難しい。

つまり、「売上を伸ばす」だけでは利益は出ない。コスト構造そのものを変えなければ、売れば売るほど疲弊する。

大手がやっていること、中小がやるべきこと

フジやイオン、イズミといった大手は、スケールメリットで仕入れコストを抑え、自社物流網で配送を最適化し、PB(プライベートブランド)商品で利益率を確保する。これは中小には真似できない。

では中小はどうするか。答えは「仕入れの精度を上げて、廃棄を減らす」ことだ。

食品小売における廃棄ロスは、売上の3〜5%と言われる。年商2億円の地場スーパーなら、600〜1,000万円が廃棄で消えている計算だ。この廃棄を半分にできれば、300〜500万円の利益改善になる。人件費の上昇分をほぼ相殺できる。

ここでAIの出番だ。

AI需要予測で「廃棄」を半分にする——実践の話

「AI需要予測」と聞くと大げさに聞こえるが、やっていることはシンプルだ。過去の販売データ(何が・いつ・いくつ売れたか)に、天気・気温・曜日・イベント情報を掛け合わせて、「明日何がいくつ売れるか」を予測する。

以前なら、こうしたシステムの導入には数百万円かかった。大手専用の技術だった。だが今は、クラウド型のAI需要予測サービスが月額3〜10万円で使える。初期費用ゼロ、POSデータを連携するだけで始められるサービスも出てきている。

広島県内のある中規模スーパー(年商約8億円、5店舗)は、2024年からAI発注支援ツールを導入した。結果、惣菜部門の廃棄率が導入前の4.2%から2.8%に低下。年間で約400万円の廃棄削減を実現した。導入コストは月額5万円、年間60万円。投資対効果は6倍以上だ。

ポイントは、AIが「完璧な予測」をする必要はないということ。ベテランの仕入れ担当者の「勘」を数値化し、属人的な判断を標準化するだけで、十分な効果が出る。むしろ、ベテランが退職した後に「勘」が失われるリスクを考えれば、AIによる知識の継承こそが中小企業にとっての本質的な価値だ。

ローカルソーシングという「もう一つの武器」

コスト構造を変えるもう一つの手段が、地元からの直接仕入れ(ローカルソーシング)だ。

輸入鶏肉が高騰するなら、地元の養鶏農家と直接契約する。中間マージンと輸送コストを省けば、国内産でも輸入品に近い価格で仕入れられるケースがある。広島県は鶏卵の生産量が中国地方トップであり、ブロイラーの生産も一定の規模がある。

瀬戸内の魚介も同様だ。漁協との直接取引で、市場を通すより15〜20%安く仕入れている地場スーパーは実在する。しかも「地元の魚」というストーリーが付くことで、消費者の購買意欲が上がり、値引きなしで売り切れる。廃棄も減る。一石三鳥だ。

大手チェーンは全国一律の仕入れ網に縛られるが、中小は地元の生産者と「顔の見える関係」を築ける。これは規模の小ささが武器になる数少ない領域だ。

「売上を追う」から「利益を守る」へ

フジの増収減益が教えてくれるのは、「売上至上主義の限界」だ。売上を1%伸ばすのと、廃棄を1%減らすのと、どちらが利益に効くか。答えは明白だ。

地方の中小小売が今やるべきことを3つに絞る。

1. 廃棄率を「見える化」する。 まずは現状を数字で把握する。多くの中小小売は、廃棄のデータすら正確に取れていない。ここが出発点だ。

2. AI発注支援を試す。 月額数万円で始められるサービスが複数ある。まず1部門、1カ月だけ試す。効果が出なければやめればいい。リスクは小さい。

3. 地元の仕入れ先を1つ増やす。 輸入品の価格変動に振り回されない仕入れルートを持つ。農家や漁協に声をかけるだけで、意外と道は開ける。

どれも、来週から始められることだ。

売上は市場環境に左右される。だが、コスト構造は自分で変えられる。「売上は伸びるのに儲からない」という構造を壊すカギは、売上の先ではなく、足元にある。