株式会社TradeSupport

2026.07.14

イズミ24時間スーパー「少人数運営」の裏側——月90万円の人件費削減は、地方スーパーの生存戦略そのものだ

月の人件費300万→210万。イズミが広島で仕掛ける「省人化スーパー」の本気度

広島市中区にオープンしたイズミの24時間営業モデル店「ユアーズ広瀬北店」。注目すべきは24時間営業という看板ではない。「少人数で回す」ための店舗設計を、ハード・オペレーション・地域連携の3層で徹底したことだ。

バックヤードの一本化、引き出し型陳列棚、そして地元スーパー同士の異例の「シール連携」。これらを組み合わせることで、月の人件費を従来比で約30%、金額にして約90万円圧縮する設計になっている。

地方スーパーの人件費率は売上の25〜30%を占めるのが一般的だ。ここが構造的に下がるなら、利益率だけでなく「どの立地で、何時間営業できるか」という出店戦略そのものが変わる。

この店舗が問いかけているのはシンプルだ。「人がいないと回らない」は、本当か?

省人化設計の中身——「人を減らす」ではなく「ムダな動きを消す」

まず、ハード面の設計を見てみる。

バックヤードの一本化。 従来のスーパーは生鮮・日配・グロサリーなど部門ごとにバックヤードが分かれていた。これを一つに統合することで、在庫管理の動線が劇的に短くなる。スタッフが売場とバックヤードを往復する回数が減れば、同じ人数でもこなせる作業量は増える。逆に言えば、少ない人数で同じ売場面積を維持できる。

引き出し型陳列棚の導入。 通常の棚は奥から商品を押し出す構造で、補充時に一度商品を全部出して先入れ先出しをする必要がある。引き出し型にすることで、後ろから差し込むだけで補充が完了する。この差は1回あたり数分だが、1日に数百回繰り返す作業だ。積み上がれば1日あたり数時間分の工数が浮く計算になる。

こうした設計の狙いは「人を減らす」こと自体ではない。「人がやらなくていい動きを消す」ことだ。結果として少人数で回る。ここを取り違えると、単なるサービス劣化になる。イズミの設計思想は、そこを分かっている印象を受ける。

人件費構造を数字で見る——月90万円の差が意味すること

具体的な数字で考えてみたい。

広島市内の食品スーパー(売場面積200〜300坪クラス)の場合、パート・アルバイトを含めたスタッフ数は通常20〜25名程度。時給1,000〜1,100円、月間労働時間を合算すると、月の人件費はおおよそ280万〜320万円になる。間をとって300万円とする。

イズミの新モデル店では、これを210万円程度に抑える設計だという。差額は月90万円。年間で約1,080万円だ。

この1,080万円が何を意味するか。地方スーパーの営業利益率は1〜3%が相場だ。年商5億円の店舗なら営業利益は500万〜1,500万円。つまり、年間1,080万円の人件費削減は、営業利益を倍にするインパクトがある。

さらに重要なのは、この構造が「24時間営業」を可能にしている点だ。通常、24時間営業は深夜帯の人件費が重荷になる。深夜割増(25%増)を考えると、22時〜翌6時の8時間で2〜3名配置するだけで月40万〜50万円が上乗せされる。しかし、日中の省人化で月90万円浮いていれば、深夜帯のコストを吸収してなお黒字が出る。

省人化によって「営業時間を延ばす」という選択肢が初めて経済合理性を持つ。これが設計の本質だ。

地元スーパー同士の「シール連携」——競合から共存へ

もう一つ、見逃せない動きがある。地元スーパー同士による「シール連携」だ。

これは複数の地元スーパーが共通のシール(ポイントシールや販促シール)を導入し、消費者がどの店舗で買っても特典を受けられる仕組みだ。通常、スーパー同士は同じ商圏で客を奪い合う競合関係にある。それが共同で販促を行うというのは、地方の食品小売では異例中の異例だ。

なぜこんなことが起きるのか。背景にあるのは共通の敵だ。ドラッグストアの食品強化、コンビニの冷凍食品拡充、ネットスーパーの浸透。地方スーパーの競合は、もはや隣のスーパーではない。業態を超えた「食の購買チャネル」全体との戦いになっている。

単独で販促費をかけて戦うより、地元スーパー同士で組んで「地元で買う」という消費行動そのものを守る。個店の売上を奪い合うのではなく、地元スーパーという業態全体のパイを守る発想だ。

この連携が省人化と組み合わさると、さらに面白い構造が生まれる。シール連携で集客力が上がれば、客単価や来店頻度が上がる。売上が上がったぶん、省人化で抑えた人件費率がさらに下がる。コスト削減と売上向上が同時に効く「両輪構造」になる。

地方の中小スーパーにとって、これは脅威か? チャンスか?

ここからが本題だ。

イズミは広島を地盤とする年商7,000億円超の大手だ。省人化のための店舗改装費や設備投資は、中小スーパーには簡単に真似できない。引き出し型陳列棚への全面切り替えだけでも数百万円単位の投資になる。

では、中小は指をくわえて見ているしかないのか。そうは思わない。

イズミが証明したのは「省人化の設計次第で、地方スーパーの利益構造は根本から変わる」という事実だ。これは店舗の規模に関係なく適用できる原理だ。

たとえば、バックヤードの一本化は新築でなくても、既存店のレイアウト変更で部分的に実現できる。引き出し型陳列棚も、全面導入ではなく回転率の高い商品カテゴリーから段階的に入れればいい。投資額は数十万円単位に抑えられる。

もっと言えば、中小スーパーには大手にない武器がある。意思決定の速さと、現場との距離の近さだ。イズミが全社的に展開するには時間がかかるオペレーション変更を、中小なら来週から試せる。店長が直接パートさんと話して、動線のムダを潰せる。

省人化の本質は「設備投資の大小」ではなく、「ムダな動きを見つけて消す」という現場改善の積み重ねだ。これは中小企業が最も得意とする領域のはずだ。

注目すべき3つの数字

今後、この動きを追う上で見るべき数字は3つある。

1. 人件費率の推移。 ユアーズ広瀬北店の人件費率が、オープン後6ヶ月〜1年でどこまで下がるか。目標の30%削減が実現するかどうかが、このモデルの再現性を左右する。

2. 深夜帯の客数と客単価。 24時間営業の採算ラインは、深夜帯の売上にかかっている。広島市中区という立地で、深夜にどれだけの需要があるか。ここが弱ければ、24時間営業は維持できない。

3. シール連携参加店舗の売上変化。 連携に参加した各店舗の売上が上がるのか、それとも単にコストの付け替えに終わるのか。半年後のデータが出れば、地元連携の実効性が見えてくる。

「人がいない」を前提にした設計が、地方小売の標準になる

広島県の有効求人倍率は依然として高止まりしている。特に小売・サービス業の人手不足は深刻だ。「人を採りたくても採れない」が地方スーパーの日常になっている。

イズミの新モデル店は、この現実に対する一つの回答だ。「人がいない」を嘆くのではなく、「人がいなくても回る」設計にする。

これはスーパーに限った話ではない。飲食、宿泊、製造、物流——地方の中小企業が直面する人手不足は業種を問わない。「少人数で回す仕組み」を設計できるかどうかが、これからの地方企業の生死を分ける。

イズミの実験は、広島から始まった。結果が出るのはこれからだ。ただ、一つだけ確かなことがある。「今まで通りの人数で、今まで通りに回す」という前提は、もう成り立たない。

月90万円、年間1,080万円。この数字の重みを、地方の小売経営者はどう受け止めるか。答えは、各社の行動に表れる。