株式会社TradeSupport

2026.08.28

ひろぎんHD「社内インターン」で離職率21%→8%——中小企業が今日から真似できる「低コスト版」を考える

離職率21.2%が8.5%に。この数字の意味を考えてほしい

若手が3年で辞める。広島に限らず、地方の中小企業にとってこれは「よくある話」ではなく「経営を揺るがす話」だ。

採用コスト、教育コスト、引き継ぎの混乱、残った社員の負担増。中小企業の場合、1人の離職で失うコストは年収の1〜2倍、つまり300万〜600万円とも言われる。5人辞めたら1,500万円。売上ではなく「消えるコスト」だ。

そんな中、ひろぎんホールディングスが導入した「社内インターン制度」が結果を出した。入社3年以内の離職率が21.2%から8.5%に低下。約6割減だ。

問いはシンプル。この仕組み、中小企業でも使えるのか?

ひろぎんHDの社内インターン——何がポイントだったのか

ひろぎんHDの制度は、入社1〜3年目の若手社員が、希望する別部署の業務を一定期間体験できるというものだ。

一見すると「部署異動」と変わらないように聞こえるが、構造が違う。

若手が辞める理由の上位は、「この会社にいても将来が見えない」だ。社内インターンは、この「見えない不安」を「見える選択肢」に変える。転職しなくても、社内に別の道があると実感できる。それだけで辞める理由がひとつ消える。

さらに副次的な効果として、部署を越えた人間関係が生まれる。若手にとって「相談できる先輩が別の部署にもいる」状態は、心理的安全性を大きく高める。

結果、離職率は半分以下になった。

「うちは銀行じゃない」——中小企業の本音に向き合う

ここで多くの中小企業経営者はこう思うだろう。

「ひろぎんだからできたんでしょ。うちは社員30人で、部署も3つしかない」

その通りだ。社内インターンを「制度として」そのまま真似するのは難しい。人事部がない、余剰人員がいない、仕組みを設計する時間もない。

だが、本質を抜き出せば話は変わる。

ひろぎんHDの社内インターンが効いた理由は、制度の立派さではない。「若手が自分のキャリアを自分で考える機会」と「社内に複数の居場所がある状態」を作ったことだ。

この2つなら、中小企業でもやりようがある。しかも、300万円もかからない。

中小企業版「社内インターン」——コスト別3つの打ち手

【コスト:ほぼゼロ】月1回の「越境ランチ」

月に1回、若手社員が普段関わらない部署や担当の先輩と昼食を共にする。ただそれだけだ。

重要なのは「業務の話を聞く場」にすること。何をやっているのか、どんなスキルが要るのか、面白さは何か。形式張った研修より、飯を食いながらの30分の方がよほど情報が入る。

社員30人の会社なら、3ヶ月で全部署の話を一巡できる。コストはランチ代の補助を出しても1人あたり月1,000円。年間12,000円。10人でも12万円だ。

【コスト:5万〜20万円】四半期ごとの「1日体験ローテーション」

四半期に1回、若手社員が希望する部署で1日だけ業務を体験する。ひろぎんHDの社内インターンの超簡易版だ。

「1日で何がわかるのか」と思うかもしれない。だが目的は「スキル習得」ではなく「視野の拡張」だ。製造現場しか知らない若手が、営業の商談に同席する。経理の人間が、現場で製品が出荷される瞬間を見る。それだけで「自分の仕事の意味」が変わる。

コストは、受け入れ側の業務調整にかかる時間コスト程度。外部に払う費用はゼロに近い。事前の段取りシートを1枚作る手間をかければ、現場の混乱も最小限に抑えられる。

【コスト:10万〜30万円】半年に1回の「キャリア対話会」

外部のファシリテーターを1人呼んで、若手社員が自分のキャリアを言語化する場を作る。

ポイントは、上司がいない場で行うこと。上司の前では「この会社で頑張ります」としか言えない。外部の人間が入ることで、「本当は何がやりたいのか」「今の仕事のどこに不満があるのか」が出てくる。

ファシリテーターの費用は1回5万〜15万円程度。半年に1回で年間10万〜30万円。若手1人の離職を防げれば、採用コスト300万円が浮く。投資対効果は10倍以上だ。

本当のコストは「仕組み」ではなく「経営者の覚悟」

正直に言う。上に挙げた3つの施策は、どれも目新しいものではない。

では、なぜ多くの中小企業でやっていないのか。

理由は2つある。

1つ目は、「忙しくてそれどころじゃない」。人が足りないから若手に余計なことをさせる余裕がない。だが、その「忙しさ」の一因が離職による人手不足だとしたら、完全に悪循環だ。

2つ目は、「若手に本音を言わせるのが怖い」。キャリア対話会で「実は辞めたいと思ってました」と言われたらどうする? だが、言わずに辞められるよりはるかにマシだ。本音が出た時点で、まだ打ち手がある。

結局、最大のコストは金ではなく、経営者が「若手の声を聞く」と決める覚悟だ。

広島・瀬戸内の文脈で考える——若者流出と企業の責任

広島県の転出超過は深刻だ。総務省の住民基本台帳人口移動報告によれば、広島県は2023年も転出超過が続いている。県内の高校の募集停止も相次ぎ、若者の「受け皿」そのものが縮小している。

この問題を自治体の責任だけにするのは無理がある。若者が残るかどうかは、「この街に自分の未来が見えるか」で決まる。そしてその「未来」を見せられるのは、日々若者と接している企業の側だ。

ひろぎんHDの事例は、単なる人事施策ではない。「広島にいても、キャリアの選択肢がある」と若者に示したという意味で、地域にとっても大きい。

中小企業1社1社の取り組みは小さく見えるかもしれない。だが、地域の雇用の7割を支えているのは中小企業だ。30人の会社が若手の離職を2人減らせば、地域全体では数千人規模のインパクトになりうる。

まとめ——「辞めるな」ではなく「ここにいる理由」を作れるか

ひろぎんHDの社内インターンが教えてくれるのは、シンプルなことだ。

若手は「辞めるな」と言われても残らない。「ここにいれば、こういう未来がある」と実感できたときに残る。

その実感を作るのに、300万円の制度設計費は要らない。月1回のランチ、四半期に1回の1日体験、半年に1回の対話会。年間コスト30万円以下でも、構造は作れる。

問題は、やるかやらないかだ。

来月の1回目のランチ、誰と誰を組み合わせるか。それを今日決められる会社が、3年後に人が残っている会社だと思う。